新たな企み





さらに一晩過ぎて月曜日。

慈悲という言葉をカケラも持たない妹は、本日休校するかもしれなかった俺を叩き起こし、俺は学校へ行く事を余儀なくされた。

まあ、体調もそんなに悪くないから行く予定ではあったがな、起こすにも礼儀というものがあるだろう、妹よ。

親しき仲にも礼儀ありという言葉を少しは知ってくれ。


学校へ行くと、朝のホームルームの際に担任からが紹介された。

担当のクラスも操作したんだろうな、やっぱり。

そして、コイツもやっぱり放ってはおかなかった。

ハルヒは、の名が黒板に書き出されている最中に俺の襟をグイ、と引っ張り、もうあの時の二の舞は踏むまい、と必死で踏ん張る俺に興奮した様子で話しかけてきた。

ったら、ウチの学校に編入する予定だったのね!?なんでこんな時期に編入してくるのかしら。もうすぐ新年度が始まるこの時期によ!?」

はいはい。お前の性格はよーく分かってる。つまり何があろうと不思議なんだろ。

ハルヒは、勝手に自分の妄想を広げていく。

「なら、金曜のアレは下見だったのかしら?先生を連れてないトコからして怪しいわ!!この学校に何かを見出したのかも」

この何の変哲もない学校に何を見出すというんだ?

まあ確かに、宇宙人、未来人、超能力者、更にはそいつ等から目をつけられてる怪しいヤツはいるが。

「…じゃあ席は、涼宮の隣で」

おいおい、マジかよ。

なんでまたそんな面倒な位置なんだよ。

それとも、これもハルヒが望んだからとか言うのか?



隣の席ということで、簡単に話を出来るようになったハルヒは、休み時間どころか、授業中にまで先生、生徒に構わずに話しかけた。

何かいらぬ事でも洩らすんじゃないかと、聞いてるこっちが疲れてくる。

そして放課後。

また何を企んだか、「先に行ってて!」と言ったハルヒは一目散に教室を飛び出して行く。

と俺が先に部室へ行くと、そこには長門だけがいつものようにパイプ椅子に鎮座して、分厚いハードカバーの本を読んでいた。

俺が机に荷物を置くと、もそれに習い、荷物を置く。

何かヒマを紛らわそうと、部室に置かれたオセロをとりだし、「やるか?」という質問に頷いたと一戦交えることにした。

が白で、俺が黒。

パタパタと白い駒をひっくり返しながら口を開く。

「しかし、お前はどこから来たんだ?この地球上じゃないのか?」

言葉や文化も通じるから、実はそう遠くない場所だとかじゃないだろうな。

分からない、と首を傾げる

「裏側」

すかさず答えたのは、勿論長門。

裏側?何のだ。

「この世界に存在する実体には、必ず裏が存在する」

このオセロ駒みたくか。

俺は駒を一つ手に取って眺める。

長門は続けた。

「それは地球にも言える事。彼女、は地球の裏側に該当する世界の人間」

理屈から言えば簡単だが、納得するには中々難しい話だな。

「その、裏側には行けないのか?」

行けないんだろうな、と考えながら訊く。

行けるんだったら今頃はこんな所でオセロなんかしちゃいないだろう。

しかし、長門の返答に俺とは耳を疑った。

「行ける」

「…今なんと?行けるの?」

の質問に頷く。

なら、どうしてそうしない?

「行ける。一言で言えば。でも裏側への移動方法は情報統合思念体でも確立されてない。だから不安定で、時間平面上の位置の特定は困難」

「つまり、いつの時代に跳ぶか分からないと」

「そう。時間は悠久であるべきもの。未知数の瞬間が重なり合って形成されている。行きたい瞬間へ跳ぶのは、ほぼ不可能。
それに、裏側へ移動した場合、裏側からその移動方法が適合されるかは不確実」

「俺達も一緒に行った場合、帰ってこれるかどうかも危ういってことか」

肯定。

行き先の保証も出来ない状況で、一人で送り出すわけにもいかない。

つまり、行き止まりか。

はぁ、と二人で溜息をついていると、朝比奈さんと古泉が入室。

二人とも荷物を置くと、部室に来る前に見たものを口々に伝える。

「さっき、涼宮さんが大きなダンボール箱を抱えてたんです」

と自分も疑問符を浮かべながら伝えてくれたのは朝比奈さん。

ダンボール?

「ええ。先生と話していましたよ。あまりにも大きな箱なんで、大方、荷台でも借りるつもりなんでしょう」

コレくらいの、と身振り付きの解説を古泉が付け足した。

それを見る限りでは、結構、でかい。

その場に立ち会わなかった俺が言うのもなんだが、手伝ってくればいいものを。

あ、勿論朝比奈さんは手伝う必要ありません。

「涼宮さん、やっぱり部室でみんなに言って驚かせたいんじゃないかと思って」

やっぱり、手伝った方が良かったかな?と心配を顔を出す朝比奈さん。

いえいえ、あなたはそんな心配する必要なんかありませんよ。

まあ、ハルヒのことだからやろうと思えば一人で担いででも持ってくるだろう。

そう考えていると、話の当事者がやってきた。

「お待たせっ!みくるちゃん!今日は何の日?」

入って間も無く口を開いたかと思うと、すぐに朝比奈さんを指差し、問いかけるものだから、朝比奈さんはついていけず、驚いて背筋をピンと伸ばした。

「えっ!?えっと…あっ、『ひなまつり』ですかっっ!!?」

「その通りっ!!じゃ、!『ひなまつり』と言ったら何?」

すぐさまに標的を変える。

「う?うーん……お雛様?」

「そうよっ!」

そこまで悩む必要ないだろ、そこは。

「ってワケで、」

ドスン、とダンボール箱を乱暴に部室内に運び、下ろすと、いつものように胸張って居丈高に言った。

「やるわよ、『ひなまつり』!!」



…また何を言い出すんだろうね、コイツは。