僕なりに。






「いいな〜」

これで三回目。

私の家で何をするでもなく二人してのんびりしていたのだが、私は床に転がって気に入りの少女漫画を開いてはそうぼやいていた。

もちろん、独り言なんかじゃなく。

ちょっと離れたところで椅子に座っている彼に、それとなくアピールしているのである。

雑誌を手にときどき紅茶を啜る彼は、初めは聞き流していたが三回目にしてようやく口を開いた。三度目の正直。

「いいな、って、何がさ」

ぱたん、と雑誌を閉じてこちらを見下ろした。

しめた、とばかりに足をバタバタさせて強請ってみる。

「私もこんな風に言われてみたい〜」

ん、と漫画を掲げるとどれどれ、と覗きこんできた。

そこには少女漫画にはつきものな、甘〜い口説き文句。

一通り眺めてみてから、彼は呆れたようにため息をつく。

「それはマンガの話だろ〜?現実を甘く見ちゃいけないよ」

「何言ってんの。昔はどうだか知らないけど、最近はマンガ顔負けなスゴイセリフ言いあう男女って多いんだよ〜?しかも人目も憚らず」

人の話を聞いてみると、なかなか漫画以上に面白い話が聞けるものだ。

彼は脳内の古い記憶を漁っているらしく、顎に手をやって時折「へぇ、あれってあの人が特殊ってわけじゃなかったんだなあ」なんて呟いている。

どうやら人の恋事情は昔から変わっていないらしい。

一通り記憶漁りを終えたところで、彼は本題に戻ってきた。

「べつに言っても構わないけどさ、考えてもみなよ。僕がウェラー卿みたいな歯の浮くような爽やか好青年なセリフ言ったらどうする?」

ちょっと想像してみる。

コンラッドみたいなことを言っちゃうムラケン。「ステッキを持つ貴女もステキですよ」とか言っちゃう。

あ、鳥肌。

「…ひく」

「うーん、それ以前に、ステッキをもつ彼女に遭遇する率は極端に低いんじゃないかなあ。というか、いくらウェラー卿でも女性を口説くのにオヤジギャグは言わないと思うよ…」

そういう二人は実際ウェラー卿がそんなことを言っていたなんて、露ほども知らない。

ざーんねん、と再び漫画を開いた視界の脇で彼は紅茶を啜りながら、さして気にすることでもないように言った。

「残念ながら、僕にはそういうセリフは似合わないみたいだからねえ。仕方ないから、


 僕は僕なりに君をオトす方法を考えるよ」


あまりにさっぱりと言いきってしまったので、理解するまでに少々時間がかかった。

理解すると同時に漫画に埋めていた顔にみるみる血液が集中していくのがわかる。

ちょっと漫画から目線を上げて彼を覗き見ると、彼は確信犯とでもいうかのごとく笑顔を返す。

「例えば、こんな感じにね」

「…参りました」

いつまでも貴方には勝てそうにありません。





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まるマ初夢です。
しまった、初夢なのにヒロインの名前出て来ない!!
ムラケンにこんなこと言われた〜い!!と妄想爆発気味です。
ムラケンは「○○って言って〜」とか言ったら、普通にやってくれそう。しかも超感情移入して(爆笑)。
言われたいシリーズは、言われたい台詞のトコだけ間隔あけてますw
彼女が出来たらムラケンは乙女心はちゃっかり把握してそう。(なにしろ本人が女性だったころの記憶があるわけですから。)
ムラケンはその気になればコンラッドと張り合えるほどの女ったらしになれそうな気がする(笑)