ギリチョコ。
深夜一時を廻った頃。
は舟番であるウソップの目を盗んでキッチンへ潜り込んでいた。
リミットは朝の仕込みが始まるまでの数時間。
は深呼吸をし、目の前の材料と対峙した。
「…よし!」
現在、12時を廻ってからの日付は2月14日。
恋する乙女の勝負の日である。
は義理チョコにまぎれて本命チョコをこの船のコックであるサンジに渡すつもりだったが、昼間キッチンを使えば簡単にばれてしまうし、朝早くや夜遅くにも仕込みのために本人がキッチンを使用中。
残された選択肢はこの真夜中しかないというわけだ。
は誰にも気付かれないように慎重に作業を進めていった。
30分、1時間と経っていき、とうとう包装を終え、それぞれ誰に渡す物か分かるようにチョコの上に名前を書いたカードを乗せては一息ついた。
ルフィ他男性陣には袋に詰めたカップチョコ、サンジ用には箱に正方形型の生チョコを詰めた、いわゆる石畳チョコを作った。
チョコを眺めただけで、とうとう夜が明ければ渡すのだとドキドキしてしまう。
「ほ、本当に渡せるかな…」
本番のシュミレーションをしながら、は顔を真っ赤にしてボウルなどの器具を片付けていく。
そこに、キィ…、と扉の開く音が。
(やばいっっ!誰かに見つかったっっ!!)
反射的にばっと振り向くと、そこにはよりによって、何か物騒な物を握ったサンジが。
「さ、サンジ…??なんでこの時間に?」
「あァ、ちゃんだったのか。キッチンで物音がする上に、ルフィが寝床に居なかったから、てっきりルフィが食料漁りに来てんのかと」
「…サンジ。何握ってるの」
「何って、包丁」
「いや、それは分かるけど」
船長殺す気ですか。
日々の食料争奪戦の修羅場を見た気がして、は悪寒を走らせた。
ふとサンジは、テーブルの上の物を見つけての目的を察し、きまりが悪そうに謝った。
「そうか、そのためにキッチンにね。悪い、気付かなかったことにするから」
この時間帯にわざわざ作っていたということで、内緒にしておきたいということは伝わっているようだ。
「あ、うん。ありがとう」
としては、サンジ宛のチョコがバレないか、ひやひやしている。
こんなシチュエーションで今渡すというのも何だか嫌だし、改めて夜が明けてから渡したいのだが。
しかし、そんなの考えとは裏腹に、サンジは何気なくもう一度テーブルの上を眺めた。
そこで、一つ変わったチョコレートの存在に気付き、目を留める。
思わずサンジはその上の宛名も見てしまった。
「そのチョコ…おれの?」
「えっ、あっ、いや、」
本命チョコがばれてしまい、は一気にパニックに陥った。
「こっ、これは、義理。義理義理義理チョコなのっっ!!!」
サンジは、おもむろに右下隅のチョコを一つ手に取り、口に放り込む。
そして、したり顔で笑って見せた。
「ギリギリ義理チョコ?」
「違うって!!」
「分かった、分かった」
するとサンジは、自然な動作での頬に唇を寄せて、離すとそのままキッチンの扉を開けた。
「明日は本命チョコ楽しみにしてるよv」
そう言い残すと、ひらひらと手を振ってキッチンを出て行った。
「だから、違うって…」
パタン、と扉の閉まる音がすると、はへたりと力が抜けてしまった。
―――明日(は本命チョコを―――
朝六時。
「ルフィ〜、おはよう!」
「んあ〜?おふぁよう、…」
「はい、チョコ」
「おっし、野郎ども!!今日も一日張り切っていくぞ!!!」
ウソップ「切り替え、早っっ!!」
「はい、皆にも義理チョコだよ〜!!」
「って、はっきり言いすぎだァ!!ちっとは気ィ使えェ!!!」
チョッパー「ゾロ、起きないなァ」
「じゃ、枕元でいっか」
一通り配ってキッチンへ。
「サンジ〜、はい、チョコ!」
「おっ、サンキュ」
は手渡すと直ぐに去って行った。
がキッチンを出てからサンジが箱を開けると、そこには石畳チョコと、右下隅にはハートのチョコレートが――…
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義理義理言ってたら、脳内で分解を始めて漢字が訳分からなくなりました;;(俗にゲシュタルト現象という)
ギリギリ義理チョコは、あと一歩で本命、ということで。
ああ、どうして一番チョコをあげたい人には渡せないんだろう、とバレンタインの準備していて嘆息した水乃。
お相手はやっぱりサンジです。どうして水乃は二次元へ行けないの?(危うい考え)
クリスマスか誕生日のプレゼントで一番欲しいのは二次元への片道チケット。