王の威を借るコアクマ。
     Sixth.川の流れに身を委ねて





母を捜して三千里を進むという話は有名だ。といっても俺は読んでないけど。

俺はもう何キロ進んだかなー、王様捜して。

「ねえ、三千里ってどのくらいだっけ?」

「その単位は詳しくは知りませんが、その半分も進んでいないことは確かですよ」

「そうかなぁ…俺にはもう六千里くらい進んだつもりなんだけど、気分的には」

一里って何メートル?とか考えながら、俺は既に体力尽き果てていた。馬に乗ってるけど。

おっかしいなぁ…体力には自信あったのに!!

「ほら、あと少しですよ、。あの村です」

「えー、どこ?」

「ほら、あの僅かに覗く屋根とか」

「あー、風見鶏とか見えるねー確かに」

「…お疲れのようであれば、お送りしますが?」

にっこり笑われたら、背筋が凍った。棒読みしてスミマセン。


村に入ってすぐに馬を止めて村長に話を聞きに行った。活動の制限をなるべく減らす為、村長だけには話しを通してあるらしい。但し、オブラートに包んで。

「これはこれは!このような小さな村へ、ようこそおいで下さった!」

そのままテンションの高い村長に、家の中に引き込まれ、ソファに座らされ、お茶とお茶菓子を出された。

俺なんかは、「あ、どうもすみません」とか言いながらお茶菓子に手を出さんとしていたのだが、ナフェスは流石というか、落ち着きの無い村長に本題を切り出した。

「…それで、こちらに陛下がお見えになったとの噂を耳にしたのだが」

「ええそれは勿論!今も客間にお見えになっております!!」

表面軽く笑みを浮かべ、ティーカップを優雅に啜っているナフェスだが、三週間生活を共にしていた俺には分かる。この皮膚の下には疑心暗鬼の表情がありありと見えていた。

村長が嘘をついていないにしろ何にしろ、所詮少し似ているばかりで勘違いされた"被害者"であろうと。

その裏の表情に気付くはずもない村長は、「お呼びして参りましょう」と腰を浮かせかけたその時だった。

「いや…その必要はない」

新参者の声にその場の全員が目を向けると、そこには城の肖像画そのものの人物が腕を組み、戸に凭せ掛けるようにして立っていた。

「…陛…下…!!」

その場で唯一本物の国王を知るナフェスは、ティーカップを今にも取り落とさんと言うほどに驚いた表情を見せた。

「何故…ここに…」

「積もる話もあるだろうが、とりあえずここを御暇したい。…村長、数日の間迷惑をかけたな」

「いいえ、滅相もございません」

今にも揉み手をしかねない村長ににこやかに送り出された一行は、ひとまず村の外れの川岸に来た。


手ごろな岩を見つけて、それに優雅に腰掛けた国王は、未だに驚愕の色を隠しきれない王佐に微笑みかけた。

「さて、久しいな、ナフィ。それに…初めましてと言うべきかな、私の影武者殿」

「え、俺の事…?」

「知っているとも。この間のダンスパーティーの折には大変世話になったようだからね」

「あー、そっか。あれ結構騒ぎになったもんなぁ…」

初対面同士で話に花を咲かせていたとき、ようやく我を取り戻したナフェスがラフォードにずかずかと歩み寄った。

「なぜ、今まで行方をくらまし続けた貴方が、今回に限ってひょっこりと姿を現したのです!!」

「心外だな。私はわざわざ身を隠したわけではない。ただ少し用があるので城に戻らずナフィやグルーストやヴィフスに顔を見せなかっただけのことだ」

ラフォードは笑みを絶やさないが、ナフェスはそう穏やかにはいかない。

「今まで…!何処にいたのです!!」

「最近はずっと王都近辺を転々としていた。現在の王室の状況を知ってから。今回わざわざ顔を見せようと思ったのは、ただ私の影武者がどんな人物かを知りたくなってね。それだけだ」

ゆったりとそこまで言うと、ラフォードは此方に体を向け、にっこり笑いかけた。

「ときに…、影武者殿と二人で話がしたいんだが…いかがかな?」

「…どうぞ、お好きに」

「え、俺?」

了承の言葉を放つと、ナフェスは静かにその場を立ち去った。

いきなりの二人きりに、状況をつかめなくなった俺はしどろもどろ状態に。

それに反して落ち着いた態度のラフォードは、近くにあった岩を指差した。

…こちらへ」

岩に腰掛け、少し落ち着いた俺はまず初めに思ったことを聞いた。

「…名前も、知ってるんだな」

「あぁ、調べさせてもらった。今の私には人脈が無く、些か大変だったがね。

…私の臣下達―ナフェス、グルースト、ヴィフスライト―とはどうだ?」

「本当に頼りがいのある人達で、助かってるよ。執務とか全然わかんないしね。

ダンスパーティーの時も…助けられた」

「…そうか」

その俺の言葉を聞くと、ラフォードは心底満足げに笑みを深めた。

足を組んでその上に頬杖をついたラフォードは脇の川を眺めてじっと黙った。

その流れはあまりに緩やかで、俺も思わず川の流れにしばし感覚を委ねた。

それから長くも1分ほどたっただろうか。ふとしたきっかけに、ラフォードが口火を切った。

「お前は…仮であろうと一時的であろうと、王としての権力、義務を手にしたわけだが…やりたい事などはあったか?」

「特に無いね。そもそもイキナリ王様になれって言われてアレコレしたいって言えるほど肝が据わってないんだよ」

「成程。では言い方を変えよう。王としての志はあるか?」

「志ね…――俺が王になったからには、この国の人には不自由なんてさせない。飢えに苦しむこともなく、罪に怯えることもない国にする」

俺が旅したある国で行われる"選挙"という時になら、いつでも聞けそうで、ありきたりで、言い放つのはとても簡単な言葉だけれど。

その反面に、その言葉の重さはとてつもないけれど。

俺は元々盗賊で、そんなことを言えた立場でもないけれど。

「…それでももし、…もし許されるなら、この志をもって国を動かしたい。そう思う」

笑みを消し、まっすぐ俺を見詰めていたラフォードの視線に、俺もまっすぐ見詰め返すと、ラフォードは再び満足げな笑みを見せて岩から降りた。

「…もう用は済んだ。私はまたこの国を離れることになる。皆にはよろしくと伝えておいて欲しい」

声色を少し強めてナフェスにも聞こえるように言い放つと、ナフェスが少し離れた木陰から身を現した。

「また…行ってしまうのですか」

「まだ、やらねばならない事がある」

「私では…どうにもできない事ですか」

「…ああ」

返事を聞いて一瞬視線を落とし苦痛を顔に表したナフェスだが、直ぐに平常の顔を取り戻し、顔を上げた。

「いつでもお待ち申上げております。陛下のお帰りを」

「ああ、留守を頼む」




城に戻ると、グルーストとヴィフスが城門で出迎えてくれた。

ナフェスはグルーストに、俺はヴィフスにそれぞれあったことを説明した。

「どうだ、居なかっただろう、陛下は」

「…いや、会ったよ」

「何、居たのか!?」

「ああ。…今はまだ帰れないけど、"よろしく"って、言ってた」

「…そうか」

主からの伝言を聞いたヴィフスは、すべてを納得した表情を見せ、そのまま踵を返した。

「…さあ、部屋に帰るぞ。山ほどの執務が待っているからな!」

「あーあ。俺の執務地獄も続くのかぁ…」

だけど、執務が出来る分だけ、志に近づける。

"俺が王になったからには、この国の人には不自由なんてさせない。飢えに苦しむこともなく、罪に怯えることもない国に"

王の威を借りて、何時まで、何処までやれるかは分からないけど、やれるトコまで、やりたいんだ。





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珍しくシリアスな展開を書いてみちゃったりした水乃です。
シリアスもの書くとなんか気障になっちゃって後で読んでて鳥肌立っちゃったりして大変です;;
UP自体も久々だぁ〜;;
てかPC開くのも滅多に無くなったという現状にまずびっくりです。
水乃ったら、あんなに夢小説っ子でイラストっ子でニコニコっ子でようつべっ子だったのに!!(全て閲覧の方)
因みにタイトルは王様捜す篇で対にしてみましたv