メイクハーマイン
青子は、暇を持て余した今日1日を振り返って、その元凶を思い、窓の外を眺めていた。
…キッドのバカ…
青子の大好きな幼馴染みは、『仕事』の為に今日の約束を破らざるを得なくなり、この休日をそれぞれ一人で過ごす結果となった。
青子は数ヶ月前から事情を知るようになった。
事情を知って貰ったようになったからか、快斗は以前より仕事に掛かりきりになることが増えた気がする。
「休日くらい休みなさいよ…」
杞憂を帯びた目でじっと空を眺めると、ふと白いシルエットが目に付いた。
シルエットは段々大きくなって、仕舞いには人の形になる。
白い影は夜の冷たい空気を連れて窓の縁に降り立った。
白い影は今の今まで青子が思っていた人物。
「こんばんは…お嬢さん」
青子は始め驚いて呆けていたが、はっと我にかえってぷいと顔をそむけた。
「何しにきたの?青子の家には盗むものなんて何もないよ」
「そんなはずはありません。現に私はこうして宝石を求めてここまで参上したのですから」
「無いったら!」
むきになって答えると、キッドは怯むこともなく苦笑をもらした。
「ありますよ…私の目の前に、今まで見たこともないような魅力的なサファイヤが一つね」
そう言いながら窓の縁から降りて青子に歩み寄り、言葉の最後に跪いてから青子の手を取ってキスを落とす。
そうして下から覗きこまれるキッドの瞳は、紳士のように神秘的で、子供のように輝いていて…
思わず青子は息をすることすら忘れてキッドの瞳に見入った。
しかししばらくすると気を取り直したように反論する。
「…青子は宝石じゃないもん」
「これは失礼、この泥棒めの言葉がお気に召しませんでしたか?」
では、というと、慣れた手つきで手を取っていない左手でさっとマントを払い、もう一度体勢を整えてから口を開く。
「今宵は、貴女を私の物にしたく参上いたしました…お嬢さん」
ふわりと微笑みを湛えてそう見つめられると、青子は顔が真っ赤になって、目を合わせることができずに泳がせる。
…そんなこと言ったって許さないんだから。
意地になって心をどうにか怒りの方向へ持っていこうとするが、本心がじわじわと喜びへ引っ張って行く。
最後の意地で、そっけない口調を装ってぼそりとつぶやく。
「…青子は、返品不可なんだから」
そういうと、キッドは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、またふわりと笑って答えた。
「承知の上です」
キッドはもう一度手の甲にキスを落として去って行った。
青子の大好きな幼馴染を残して。
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約束を破ってしまった青子のご機嫌取りに、仕事後青子の家に直行した快斗でした。
ちょっと水乃のほうで「メイクハーマイン」という曲に接触する機会が出来、いいタイトルだなぁ…vvなんて思ってネタに用いました。
このタイトルみた瞬間に頭に浮かんだのがキッドと青子でしたvv
これは快斗でなくキッドだろう!!と。
青子がキッドの正体知らない状況で行こうか迷ったんですが、快斗がいるのに他のオトコになびく女じゃない!と青子の純粋さに一票入れてこういう伏線に。
まあ、あんまり話の内容には係わっていませんが。
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