メロンパン





「柳くんさぁ、メロンパンすき?」


両手に山ほどのメロンパンを抱えて、私は後ろの席の彼に訊いた。
購買に売れ残ってたから、買い占めてきちゃった、なんて笑って言うと、そんなに一人で食べきれませんよ、なんて苦笑が返って来る。

だから、柳くんと頑張って消費しようかと思って、と言いながら柳くんの机の上にどっかりとメロンパンを置いたら、はじめ驚いたようにきょとん、としていた顔が、やがてふんわりと笑顔になった。
ああ、本当に可愛いなぁ、この笑顔。

そんな癒し系笑顔にこちらもつられて笑顔になりながら、向かうようにして私も席につくと、一つのメロンパンを手に取って封を開ける。
どうぞ、とジェスチャーと一緒に目の前の彼に言ったら、いただきますと礼儀よく断って彼もメロンパンに手をつけた。
しばらく二人で黙々とメロンパンを咀嚼していたけど、一つ目の消費を終えて二つ目に手を伸ばした時に、私はもう一度彼に訊いた。


「それで、また話は戻るけど、柳くんメロンパンすき?」


無理矢理食べさせといて、今さらこんな質問もないよなぁ、と訊きながら私自身思う。
けれど、向かいで必死に口を動かしてメロンパンを咀嚼する彼は、嫌な顔もせず、ただにっこりとして答えた。


「好きですよ」


そんな、なんでもない一言に、私は心の中がふんわりと暖かくなる。
彼はメロンパンが好きだと言っただけなのに、それでもこの一言に嬉しくなってしまう自分がいて。
そんなことの為に、実はこれだけのメロンパンを持って君の前に現れたのだ、なんて決して言わない。否、言えない。

こんな気違い的で、どうしようもない私の心の中を知ったら、君は引いてしまうだろう。
蔑む、とか、倦厭する、とか、そう言うことはきっと彼はしない。
そんな優しい彼を好きになり、そんな優しさに漬け込んでいる私は、卑怯者だ。

そんな私の心の中を知るはずのない彼は、ふうん、そっか、と軽い返事を返した私に、またにっこりと微笑んだ。


「でも、さんのほうが好きです」


そう言った彼の笑顔を見て、私はぱくりとメロンパンを咥えた口をぴたりと制止させた。

すき、って。
初めて私自身に向けられた言葉。
彼は私が求めるその言葉の意味合いを分かっていて言っているのだろうか。

否、きっと彼のことだから、メロンパンと同じように、私も好きなのだ。
食べ物と同じってのも、悲しい気はするけど。

いや、少なくともメロンパンには勝ったのだ、と自分を慰めつつも何とか再び咀嚼を始めたら、そんな私に彼はまた言った。


「メロンパンとか、友達とかじゃないですから。今のは」


ようやく再開したはずの咀嚼が、また止まる。

私が欲しい言葉をこうも口に出してくれるなんて、彼はエスパーなんじゃないだろうか、なんて馬鹿みたいな考えが頭を過った。
いつの間にか火照ってしまった顔で彼を見上げれば、彼はいつも通りの人当たりの良い笑みを浮かべていて。

まさかこれは夢や空耳なんじゃないかと思い始める前に、私も慌てて返事を返した。








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久々UPと共に文形式を変えてみました。
なんだか変態チックなヒロインな気もしますが…恋ってこんなもんだよね!
恋をすると皆変態になるものさ!(ぇ