MEMORY






「もーっ、快斗ってばこんなに部屋散らかして!」

「あーはいはい。…ったく、いちいちうるせーなァ」

はたきでパタパタ棚の上を叩く快斗の後ろでは、山積み本を両腕で抱えながら部屋の端から端へ移動させる青子の姿。

今現在二人は、散らかりきった快斗の部屋を大掃除中である。

高校生になってから互いの部屋に訪れることがめっきり減っていたが、宿題で必要になった参考書を青子が学校に置いてきたということで、快斗に借りにきたところ、久々に覗いた快斗の部屋の散らかり様に絶句した青子が強制的に大掃除を決行したのだ。

減らず口を叩く快斗に青子は文句を垂れる。

「青子がせっかく掃除手伝ってあげてるのに!」

「へーへー、それには感謝してますよ」

棒読みで返すそれには、とても感謝の念は感じられない。

しかし、むっつりと不機嫌になりながらも青子は掃除を進める手を止めない。

その様子を見て、ホントにお人よしだよな、と苦笑しつつ快斗は机の中の整理に移った。

一番大きな引き出しの中身を引っ張り出していくと、次から次へと物が出てきて、次第に年代物になっていく。

「…お?」

最奥部に見つけたのは、お菓子のオマケが入っていた小さな箱。

手に取ると、コロコロと中で何かが転がる感覚。

…これまた、随分懐かしいモンが入ってたな。

…そいやぁ、あん時も…

快斗は思い出の品を手に、過去に想いを馳せる。




GWが間近となった、年度が変わりたての春。

一つ屋根の下で、小学生になったばかりの二人の子供が何やら少し言い合いをしていた。

「そーじてつだってくれよ、青子!」

「なんで青子が、快斗のおへやのそうじのおてつだいをしなきゃいけないの?快斗ひとりでやればいいじゃない!」

「おれだけじゃおわらねーんだよ!てつだってくれたら、おれいにマジックみせてやっからさ!」

まだ知らないことが多く、『マジック=魔法』と信じて疑わない小学1年生の女の子は、それを聞いてぴくりと嬉しそうに反応した。

「…まじっく?」

「ああ!まだとうさんにもかあさんにもみせてない、とっておきなんだぜ!!」

「みるっ!!」

得意げな快斗に、きゃあきゃあとはしゃいで青子は掃除の手伝いを快諾した。


色々楽しい話をしながら、二人は着実に掃除をこなしていった。

そんな掃除中、青子がふと思いついた疑問を快斗に投げかける。

「ねー快斗?」

「あん?」

「どうしていきなりそうじなんてすることになったの?」

「べ、べつにっ。かあさんがうるせーから、やんねーとなっておもっただけだよ」

「ふーん?」

それで納得した青子に紅くなった頬を隠しながら、快斗は昨日の母親との会話を思い出す。


『部屋の中、散らかり放題じゃない。いい加減掃除しなさい、快斗?』

『いーじゃん。ちらかってるからって、べつにこまんねーし』

『…あそう?じゃあ、今度のGWは青子ちゃんと二人っきりで旅行にでも行ってこようかしら』

『なっ、なんでいきなりそうなるんだよ!』

『いいじゃない、女は女同士で積もる話があるのよv小学校に上がって、気になる男の子でも出来たか聞いてみたいし。
ホントはGW中は母さんと父さんの昔のお友達が家に来ることになってて、その間快斗は青子ちゃんのお宅に預けようかと思ってたんだけど、いくら子供の部屋とはいえ、あんな快斗の部屋見せられないしねぇ。あれだけ散らかってるんなら呼べないし、予定も空いちゃうから青子ちゃんと旅行でもいこうかしらって。
父さんはもともと仕事もあるみたいだからお留守番だけど。
ま、貴方が掃除しないなら、こういうことになるわねぇ』



こうして意地悪な笑みを浮かべる母親に、快斗は掃除すると申し出ざるを得なかった。

母親との口喧嘩で勝てた試しは、これまで一度としてないのである。

GWを青子と過ごしたかったという核心に触れられて、快斗は不機嫌になりつつも、気恥ずかしくもあって、母親の顔をまともに見られなかった。


…こんな経緯があったなんて、本人には口が裂けても言えない。

快斗は頬を火照らせて青子の方を横目で窺うと、青子は机の整理に取り掛かっていた。

買い与えられて間もないはずのその引き出しの中は、すでに物が散乱している。

不器用ながらも、青子は丁寧に引き出しの中の物を取り出しては一から詰め直して整頓していく。

そしてその手が、一番大きな引き出しにかかった。

ごそごそやっている青子を見て快斗は、はっとある物の存在を思い出した。

まずいっ…!

そう思った瞬間、その物は青子の手によって掘り出され、姿を現す。

「あれ、おやつのおまけ?なかになんかはいってるよ??」

「ダメだっ!!それはっ!」

バッと青子の手から奪い去って引き出しの中に再びしまいこむ。

必死な様子の快斗の顔を青子が覗き込んだ。

「…快斗?どうしたの?それなに??」

「なっ、なんでもねーよ!」

「ウソ!だって快斗いそいでかくしてたもん!」

「…とっ、とにかく、ここはそーじいいから!すんなよ、ぜったい!!」

「なんでよお!」

引き出しを背に庇う快斗に、青子は頬を膨らませてにじり寄る。

そんな時、下から二人を呼ぶ声が掛かる。

「二人ともー!おやつにするわよー!」

「あ、はーいっ!!」

ここは食欲旺盛な小学1年生。

おやつ、の一言で何もかも記憶の端に置き去って一目散に走っていく。

快斗はその背中を見て、ほっと息をついて箱を取り出す。

この箱にしまってあるのは、快斗にとって大事な大事な思い出メモリー


箱を開くと、ころんと飛び出したのは一つのビー玉。

一見、なんの変哲もないビー玉だが、よく見ると所々に細かいキズが沢山付いている。

…これは、青子と公園で遊んでいたとき、偶然見つけたものだ。


『みてかいと!あれ、きらきらしてるよ。なにかな??』

『あん?…なんだ、ただの"びーだま"だよ』

青子が指差した先に砂にまみれて転がっていたのは一つのビー玉。

手にした青子はそれを覗き込んで嬉しそうに目を輝かせた。

『でもきらきらしててきれい…ほうせきみたいだね!』

はじけるような笑顔に、思わず快斗はうっとりと惚けた。

子供心に、この笑顔のほうが宝石なんかよりずっと価値がある、と、そう思えて…

ぼーっとしていた快斗の目の前で、青子はまた何か気付いたように駆け出した。

少し離れたところで何かを拾って、また戻ってくる。

『ね、ほら!もういっこあったよ!』

得意げに僅かに色が違うビー玉を掲げてみせる。

ふと我に帰ると、青子は快斗の手を取ってビー玉を一つ握らせた。

『これはかいとの!もういっこはあおこの!おそろいなの!!』

えへへ、と笑う青子に、快斗は顔が火照っていくのを自覚した。



その思い出がまだしっかり記憶されているとわかって、快斗は箱の中にそれがちゃんとあるのを確認し、直ぐにしまってリビングへ向かった。




…コイツ、まだ持ってたりするのかねぇ?

聞いてみたい気もするが、気恥ずかしくてそっと箱をしまう。

しかし、青子は目ざとくその仕草に気付いた。

「あっ快斗今何か隠したでしょー!?」

「別に?何も隠してねーよ」

「しらばっくれちゃって!じゃあ引き出しの中見せてみなさい!!」

「何でオメーに机の中見せなきゃなんねーんだよ。プライバシーの侵害」

「今更侵害も何もないでしょー!いいから見せなさいよ!!」

「誰が見せるかっ!」

その時、下から母さんの声。

「お昼よー!」

「あっ、はーい!」

青子はすぐさまリビングへ向かう。

あの時と同じ反応に苦笑しつつも、快斗は自分が心のどこかで喜んでいることに気付く。

全然かわんねーな、あれから。

快斗は引き出しの中を一度確認してから、その背中を追った。




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今回書きたかったのは、「マジックみせてやっから」という快斗に「みる!」と大喜びで飛びつく青子でした。
実はそこだけ。(笑)
ちびっ子同士の平仮名ばっかの会話って、萌えますvv
二人のやり取りを想像してたら、外で思いっきりにやけちゃってやばかった水乃です。
ちっちゃい頃のこの二人って、絶対抱きしめて頬ずりしたくなっちゃうくらい可愛いですよね!!(変態)
快斗が見栄張ってマジックとかでカッコつけるんだけど、青子はそんな努力に気付かずに素直に驚く、みたいなvv




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