王の威を借るコアクマ。
Fifth.虫の知らせに耳傾けて
船上パーティーから帰って早3週間。
王としての謁見や日々の執務などに慣れてきた日のことだった。
「陛下、紅茶はいかがです?」
「あ、丁度喉渇いてたんだ。サンキュ」
ナフェスとグルーストとヴィフスに説得に説得を重ね、とうとう三人と居る間のみに戻っていいという承諾を得、いくらか窮屈さも抜けた王様ライフを営んでいた。
今、部屋には本日の書類を受け取りに行ったナフェスを除く二人と、俺のみ。
数分して、扉をコンコン、と合図してナフェスが帰ってくる。手にしていた書類の束を俺の目の前の机に置きながら、ナフェスは視線をグルーストに向けた。
「――そういえば、知っていますか?」
「…あぁ、あの話か。小耳には挟んだよ」
「何だよ、何の話?二人だけに分かる、みたいな話し方すんなよ、俺の目の前でさ」
「あ、いえ、隠すつもりは毛頭ありませんが…」
「王都に隣接するある農村での噂のことだ」
知りたそうにする俺の方に体を向け、口を開こうとしたナフェスを遮ってヴィフスが喋り始めた。なんだ、こいつも知ってんのかよ。じゃ、知らないの俺だけじゃん。
「先に知るか、後に知るかの違いだけだろう。そんなことで、むきになるな」
「なっちゃいねーよ、別に」
呆れたようなヴィフスに図星を突かれ、居心地が悪くなって手にしたティーカップを覗き込む。
「――それで、先程の話だが…」
つかつかと、ヴィフスは世界地図の隣に張られたベルグリッド国内の地図に歩み寄り、一つの点線で区切られた領域を指し示した。
「…虫の知らせによるとここ、シュベルンに本物のラフォード・リーヴ陛下がいらっしゃるそうだ」
「え、何だって?本物の王様、そこにいんの?じゃ、連れて帰ってくれば万々歳、ハッピーエンド?俺はまた、しがない盗賊生活に戻れんの?」
の、割には皆さん嬉しく無さそうだけど…
なんか問題でもあんのかな?
「なんでそんな、皆浮かない顔してんだよ。探してた王様が居るんだぜ?」
「…それが信憑性のある噂であればな」
「は?」
ヴィフスはうんざり、といった表情で前髪を掻き揚げて額に手を当てている。
人並みな容姿を自負する俺としては、正直止めて欲しい。美少年度が上がって劣等感刺激されちゃったではないか。
ダメージのでかいイバラを胸にぐっさり刺された俺を知ってか知らずか、グルーストが説明を続ける。
「過去にもそのような噂は度々あるんですよ。王は城下に出るのが好きで、ちらりとでも王の顔を見るのは珍しくなく、少しでも似た人物を王と間違えた情報が流れたり、又は、情報が確かだとしても、本人が既にその地を離れていたり」
「つまり、王様がホントに居る可能性は極端に低いと」
「そういうことだ」
…なんか、俺もテンション下がってきたな。いないのかよ、王様!!
「しかし、だからと言って調べない訳にもいきません。かといって臣下がわざわざ城下に出向いたとなると、騒ぎが大きくなりますので、いつも通り、あまり顔の知られていない私が参りましょう」
早速、出立の準備を、と部屋を出ようとしたナフェスを俺は大急ぎで呼び止めた。
「あ、ちょっと待った!おれも、俺も行くっ!!」
「なりません。万が一、陛下と鉢合わせた場合、影武者が居たとなると事態が悪化します」
「じゃ、素顔でいけばいいだろ!?近くの村を確認してすぐ戻ってくるだけだから、城をそんなに空けることもないだろうし!それにっ、王の影武者が、本人の顔知らないのは問題だろっ!!?」
「…ふむ、の言うことにも一理ある」
「だよなっっ!!?」
「グルースト、貴方まで…」
腕を組んだ内の片方の手を顎に当て、思案した様子でグルーストが納得の色を見せた。
そんなグルーストに、ナフェスは非難する視線を向ける。
あと一押しってトコかな。
「よっしゃ、そうと決まればナフェス、何持って行けばいいんだ?えーと、水筒だろ、弁当だろ、あーあと、やっぱ菓子は上限なしだよなっ!500円まで、なんて今時小学生じゃあるまいし」
そういいながら、足取りも軽く執務室から退散する。
それをナフェスが早足で追いかけてくる。
「や、あなたっ!!えっ、遠足か何かと、勘違いしてますねっっ!?」
「やだなぁナフィ。王様探索だろ?うぅん、菓子といったらやっぱキャンディにチョコに……あ、チョコはムリか。溶けるもんな!」
「ち、ちょっと、お待ちなさいっ!!私はまだ了承してませんよっっ!!?」