寂しい夜に





「スマン、青子!今日も遅くなるから…」

「ハイハイ。『戸締まりしっかりして、晩御飯食べてお風呂入ってすぐに寝ろ』だよね?もう、分かってるったら」

じゃあね、と言って携帯を閉じる。

青子は真っ暗になった空を見て、はぁ、と溜め息をついてから駅を出た。

現在時刻は9時。

父の銀三が結構早く帰れそうな日は、こうして駅で待つことが多い。

それは父が少しでも安らげる時間が多くなるように、との青子の気遣いでもあるし、家で一人が辛い青子の甘えでもあった。

勤務時間が一定しない職なだけあって、待ってても遅くまで帰ってこない時は連絡がなくても先に帰るように、と再三銀三に言われるのだが、青子は連絡があるまで駅を離れようとしない。

そんなわけで青子が帰宅するのが9時を越える、遅帰りになる日も少なくなかった。

「あーあ、今日もお父さん遅いのかぁ」

わざとらしく明るさを含んだ声で、青子は呟いた。

誰も居ない家は、どんなに過ごしても慣れることなどない。

それは寂しがり屋な青子なら尚更だった。

こつん、と小石を蹴って地面を見詰める。

しばらくそうしてから再び顔を上げると、遠くに見慣れた幼馴染みの姿があった。

「快斗…?」

「女一人で夜出歩くのは感心しねーなぁ」

歩み寄ると呆れた様に言う幼馴染みに、少し反発する気持ちが先行して応える。

「…快斗には関係ないでしょ」

快斗は髪の毛をかきむしり、尚も呆れた様に言う。

「あんなぁ…関係ないわけねーだろーが。家にいねーと心配……!」

ハッとして快斗は急いで口をつぐむが、青子は言葉の意味に気付いたようだった。

「心配…って、快斗、たまたま青子を見掛けたんじゃなかったの?」

「あ、いや…ちょっと電話掛けてみたら誰も居なかったようだから…」

バツが悪そうにもごもごと口ごもる。

「…もしかして、捜してくれてた?」

「や、別に…ちょっと外出歩いてたら見掛けたっていうか…」

そう言いつつ背けた顔は、暗い中電灯に照らされて耳まで紅い。

その紅くなった頬をぽりぽり掻く快斗に青子は無性に嬉しくなって。

「…あっ、青子!!?」

「ありがとっ、快斗!」

青子は快斗にがばりと抱きついて礼を言った。

あたふたする快斗が可笑しくて、青子はくすくす笑いだす。

「快斗、赤くなってる〜!」

「ばっ、バーロ、赤くなんかなってねーよ!」

「テレちゃってぇ」

「テレてねーって!!ほら、行くぞっ」

がしっと青子の手をひっ掴むとぐいぐい引っ張っていく。

少し進んで顔の火照りが冷めてから快斗が口を開いた。

「…青子、うち来るか?」

「え?」

「どうせおじさん帰り遅ーんだろ?母さんも喜ぶし」

顔は真っ直ぐ前を向いたまま、そう言ってくれた快斗に、青子は柔らかく笑って答えた。

「うん!」

この幼馴染みの不器用な優しさに感謝しながら。




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いろいろ事情があって帰宅時間が遅くなって、異様に悔しかったためにこれをネタにして、なんとしてでも小説を書いてやる!と闘志をたぎらせた水乃でした(笑)
あーあ、快斗が迎えに来てくれたら泣いて喜ぶのに…というのを形にしました。
高二になってもお父さんにべったりって、そうとう純粋だな、と思ったり。
そんな純粋に生きてみたいなぁ…




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