王の威を借るコアクマ。
     First.王の面影深き盗賊




「待て、この餓鬼ッ!」

「待てと言われてっ、誰が待ちますかってーのッ!」

目の前には2mはあろうかという塀。前方に障害物を認めた男は、ようやく長時間に渡る追走劇に終止符が打てるであろうと安堵し、握りこぶしを固めたところであった。

しかし、追いかけられている少年は、自らの身長よりも高いそれに手を掛け、慣れた様子で飛び越えてしまった。背後では急いで塀を回りこみに行く足音が遠ざかっていった。

自身より十は年上であろう男に追いかけられていた少年の首元には、盗品と思われる大粒のルビーが拵えられたネックレス。

間違いない。『彼』が『此処』で話題になっている少年だ。

それを確信した男は、街を一望できる高台から階段伝いに降り、その場から離れた。



「…ふう、一時は撒いたけど、あの様子だと諦めてないだろうなぁ…」

しかし前方に見える道は一つ。

ここはあまり通りたくないけど。

どうしようか悩む間も無く、足音と共に追っ手の姿が見えてきた。

「――っ、しょうがないっっ!!」

今更引けぬと、前方に続く道を選択。

少し走った所で、男とぶつかった。

「っと、すんません、ちょっと急いでてっっ!……―――って、あ?」

男は少年をぐい、と掴むと、そのまま自分の後ろへ引っ張って匿う形となった。

その直ぐ後に追いかけてきていた男が到着。自分を匿う男の腕から逃れようと、必死にもがく向こう側で、チャリン、と金同士のぶつかり合う音がした。

「―――それで足りるだろう」

「…!!! はっ、はいっっ!!あぁっ、有難う御座いますっ」

男は金を握らされて、喜びというよりもビビリが勝るというような表情で、一目散に回れ右をして逃げていった。

…そんなに恐い顔してんのかな、この人。

なにせ、さっきは逆光であんまり顔見れなかったから。

男が完全に去ったのを確認してから、この男は腕の力を緩め、こちらに顔を向けた。

なぁんだ、あんまり恐くない、っていうか、かなり美形。これならカッコ良すぎて逆にびびるかも。って位の美青年だった。

切れ長の目は綺麗なライトグレーに染まっていて、オレンジを少し混ぜたような金の髪は背中より少し上くらいまで伸ばしてあるのをうなじの辺りで緩くまとめている。あ、緩くってのポイントね。

そんな超絶美男子さんは俺を見るなり口を開いた。

「やはり、噂に違わずよく似ている。実は貴方に折り入ってお願いがあるのです」

「は?」




男に連れられて来たのは、俺が進んで来た道の更に先。あぁー、ここに行き着くからこの道は嫌だったのに〜、という俺の嘆きを他所に、彼は俺をその『建物』の中に連れてきた。

まさかホントにこんなトコ入るなんて思いも寄らなかった。だってそりゃそうだろ。だってここは、この『地域』、いや、『国』全体を統括する主の住む場所、『城』なのだから。

因みに正式名称は、『カトルージュ城』。ちょっと噛みそう。「ジュジョウ」ってトコが特に。

しかし何故彼はよりによってこの『城』の出入りが許されているのだろうか。

勿論忍び入ったわけではない。ちゃんと衛兵に挨拶してきたもんな。

さっきの男に金を握らせてたトコからも察するに、この国の重役か何かだろうか。

「あの…あんた誰?」

「あれ、俺の事知りませんか。俺はグルースト・リーヴ。この城で執事として働かせていただいてます。一応ね」

一応?

気になる単語があるにはあったが、それよりむずむずして気になって仕方が無いことが一つ。

「あのぉ、何でそんな上流階級?な人に一般市民!な俺が敬語使われてんの?」

いやむしろ、盗賊やってるから一般市民よりタチが悪い。

グルーストはその問いに直接答えず、別の話題から入った。

「この国を統べる主―――王を、ご存知ですか?」

「え?いや、まだこの国来て数ヶ月だからさ。なんかまだ17、8ってのは聞いたけど」

因みに俺も17。どうでもいいけど。

「そう、まさにその通りなのですが―――」

その時、応接室と思われる俺達がいた部屋の扉が開かれた。

そこからつかつかと歩み入って来たのは、白金の背中まで届く髪をそのまま垂らし、澄んだ深めのコバルトブルーの瞳の片方を片眼鏡モノクルで覆ったこちらも超絶美形であった。

「グルースト、首尾はいかがでしたか?…ああ、こちらがかの噂の!」

噂?

いつの間に俺の噂が巷で流れ始めたのだろうか。俺ココに来て数ヶ月なのに。

頭に疑問符を並べる俺の向かいで、二人が話し合っていた。

「確かによく似ています。これなら…」

「しかし、そう上手くいくものか?」

「そこは問題ないでしょう。あの方はああいう方ですし、何よりそっくりですから」

「…あの〜、」

「「なんでしょうか」」

いや、一気に美形二人に振り返られるとびびります。

「あ、そっちの方は…?」

「ああ、申し遅れました。私の名はナフェス・リベスト。王の補佐として仕えておりました。貴方は確か、殿と…」

「そう、。なんで国の重鎮さんなんかが俺の名前知ってんの?」

「失礼ながら、国のデータベースより調べさせていただきました」

「だから、なんで俺なんかを調べる必要あんの?あっ、まさか、盗賊の一人として捕まえようってのか!?あーでもそりゃないか。流石に一介の盗賊小僧に、国のデータベースは使わないよな」

でもやっぱり居心地悪いんだよね、ココ。

いつ捕まるかドキドキもんだよ。

実は警察が居たりしないかなどと、出されたティーカップ片手にキョロキョロあたりを見回す俺だったが、彼、ナフェスの一言で俺の全神経はそっちに向けられた。

殿、貴方に当国王陛下としてこの国を統治していただきたいのです」

「へー、そーなん……はぁ!!??」

危うくティーカップ落とすトコだった。危ない危ない、落としたらいくらするんだろ。えーとまず割ったカップ代だろ、汚した絨毯代に…

「…っってそんなことやってる場合じゃないって!!えーと、ナフェスさん…だっけ?だってその国王様ってのは!?」

「昨年、戦争中にどこかへ行ってしまわれたようなのです」

なんという無責任な。

「だってほら、俺はさ、この首飾り見て解るように、盗賊なんだよ!?」

「ええ、ですから、生活の安全は保証いたします」

いやそうでなく!!ってか国が盗賊保護していいのかよ!?

「国の信任がかかっていますからね」

当然のように壁に凭れ掛かっているグルーストが言った。しらって感じで。

「やっていただけますね!?」

そう言って俺の手を握り、きらきらと目を輝かせるナフェスの向こう側には、これでもかと言うほどの警察。

お願い、と言っているようで実は承諾しないとどうなっても知らないよ?な脅し入りとは。国とはなんとどす黒いものなのだ。

「そりゃそうですよ。じゃなきゃ、やっていけません」

またグルーストが口を挟んだ。しらって感じで。

嗚呼…






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とある姉妹サイトにあるヤツを改良に改良を重ね(?)引っ張ってきました。
ついでにキャラ設定も変えてみたりして。
手をつける前は「まるマ」な雰囲気醸してたので、必死で変えてみた。(え?変わってない?)