「面白くなってきた♪」

細工は隆々。

今のところ計画になんの支障もない。

「さぁ…どう仕掛ける?探偵君♪」




コナンは劇が始まってからも、その小さな身体にものを言わせて、客席内を歩き回っていた。

探偵業中の周りの見えなさ加減は天下一品である。

探偵眼鏡の指し示す方向へ一直線に向かい、発信器のある場所を目指す。

やっとのことで辿り着いた先には、さして期待もしていなかったが、目的の人物はいなかった。

コナンは足元に転がった発信器を拾い上げ、ひとまず自分の席へ戻る。

「…あ、コナン君!もう、こんなに長い間どこ行ってたの?」

「ごめん、蘭姉ちゃん。なかなかトイレ見つかんなくって…」

ひそひそ声で蘭に窘められ、すぐさま怪しまれない言い訳で応答した。

…ここからは、自力で探すっきゃねえか…

眼鏡のモードを切り替え、客席の暗闇の中でも、肉眼で探せるようにする。

しかし、オーナーがそこそこに気を利かせたせいか、席は一階。

二階三階には目が届くはずもない。

そもそも、奴はどうやって盗み出すつもりなのか?

壇上にも何人もの警官が混ざっているのは承知の上だろうし、照明などの器具を調べてみたが、特に細工をされているような形跡はなかった。

しかも、劇中で盗み出すとなると、このホールに帰ってくるにしろそのまま逃げるにしろ、目立ちすぎる。

いや、さっきの会話からして、劇が始まる前に戻ろうとする姿勢が強く見えるあたり、おそらく連れがいるのだろう、逃げるということはそもそも考えづらい。

考えるうちに、気がつけば第一部が終わっていた。

「はぁ〜、やーっと第一部終わったか」

「ちょっと、お父さん?さっき寝てたでしょ!?」

「しょうがねーだろー?ここの劇団のおっさん、慎重すぎて今日の作戦の話を何回しても納得しねえもんだから、結局今朝の4時くらいまで話しっぱなしだったんだぜぇ?」

「だからって、ここに来てるのだって仕事だってこと忘れないでよ!」

へーへー、と寝ぼけ眼で答える小五郎に、ある一言に引っ掛かったコナンが詰め寄った。

「ねえおじさん、とっても慎重だった劇団のおじさんと、4時まで一緒に話してたの?」

「あ?ああ。…ったく、あのおっさんときたら、口を開くとすぐ『やっぱり予告状が来た、もうおしまいだ』って、それしか言いやがらねぇ」

「4時ってたしか、劇団のおじさんがうちを出てったくらいだよね?それまで、ずっと?」

「ああ、いわれてみりゃ、そうだったか。あのおっさんが来てからその話ばっかだったな、確かに」

(…そういうことか!)

今の小五郎との会話で、コナンに一連の推理が閃いた。

(おそらく団長は、そのことを誰にも話していない!!)

(でも『あの言葉』で、キッドも気づいてしまったんだ!)

「おじさんと蘭姉ちゃん、ちょっと出かけてくる!」

「あ、ちょっと!今度はどこ行くの!?」

「気分悪くなっちゃったから、外の空気吸ってくるよ!」

「あんまり遠くへ行っちゃダメだからね?」

「はーいっ!」

コナンは一目散に外へと駆けだす。


(間に合うか!!?)




コナンが楽屋へ行くと、そこには頭を抱える団長の姿があった。

「おじさん!!指輪は!?」

「そ、それが…盗まれてしまって…」

コナンが机の上に置かれている指輪のケースを開くと、そこはもぬけの殻だった。

しかし、この状況にあるということは、まだ手遅れではない。

コナンは静かに悲嘆にくれる団長のもとに歩み寄る。

「…ねえおじさん。指輪、どこにやったの?」

「な、何を言うんだ!!だから盗まれてしまったと!」

「だって、このケース、きちんと机の上にあったし、争った形跡もないよ?おじさんがもし、眠らされてる間に盗まれちゃったんなら、おじさん起きるの早くない??ねえ、おじさん、どうやって盗まれたの?」

そこまでコナンが言ってしまうと、しだいに悲しみにくれた団長の面影は消えていき、不敵な笑みへと姿を変えていった。

「やっぱ、ばれちまったか」

「本物の団長さんは?」

「寝てるよ、隣の部屋でぐっすり」

キッドは一気に団長の変装を脱ぎ去る。

「…どこで分かった?」

「おっちゃんが『慎重な団長と4時まで話し合った』って言ったからな。いくらなんでも、4時までずっと同じ話をしてるってのは他に考えがない限り、明らかに不自然だろ?
だから、『表向き』の計画をお前に漏らしておきたい、と団長が考えてたって可能性はないか、と考えたのさ。そこでおっちゃんに聞いてみたら、大当たり。
『やっぱり予告状が来た』なんて口走るほどお前を恐れてる団長が、『やっぱり』のためにイミテーションの一つくらい作るのは当たり前のような話じゃねーか」

「流石だな」

キッドは、一息でそこまでいったコナンに一言相槌をいれ、再び話を聞く。

「団長はイミテーションの話は決してお前に漏れてはいけないと思い、誰にも話さず内緒にし、当日も指輪のある楽屋には自分一人しか置かなかった」

「それで予め事実を知った俺がちょっと催眠ガスを吹きかけて、団長が夢の世界に旅立ったところで悠々と指輪を貰い受けた、と。こういうわけだな」

「まだ話は終わらないぜ?」

コナンはそう言うと速やかに時計型麻酔銃の照準を合わせる。

「お前が夢の世界に旅立って、警察に連行されて閉幕だ」

「それは御免被りたいね」

キッドはゴソリと胸ポケットから指輪を取り出して言った。

「コイツは返すよ。俺の欲しかった奴じゃなかったからな」

言い終わると共に指輪を無造作に放り投げる。

それは綺麗な放物線を描き、部屋の照明を反射してコナンの目を眩ませた。

「しまった!」

「ではまた。満月の光が一対の男女を引き合わせる宵にお会いしましょう♪」

一瞬の隙をついたキッドは、閃光弾を放ち、そのまま楽屋を後にした。

「くそっ!!」

コナンもすぐさま楽屋を出るが、そこにはもうキッドの影は見当たらなかった…




劇終了後。

「快斗ったら、結局第一部のあとの休憩時間もギリギリまで帰ってこないんだから!
っていうか、結局キッド来なかったじゃない!人騒がせなヤツっ!!」

「い、いいじゃねーか、来なかったんだから」

「これでまたキッド捕まえられなかったって、お父さん始末書書かされてノイローゼっぽくなるのよ!!?」

「…それはシビアな問題だな…」




「もう、コナン君ったら、一部のあとの休憩時間もギリギリまで帰ってこないで〜!」

「ご、ごめんなさい」

「あれからお父さん大変だったんだからねー?劇の間寝ちゃうし、いびきは凄いし…」

「はは…」

(団長がおっちゃんに4時まで付き合わせる役をやらせたのは失敗だったな…)



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