王の威を借るコアクマ。
     Second.王としての生活。




なんだかんだ説明やら説得やらを聞かされた後、「あまり話してばかりでは、突然でしたし混乱なされるでしょうから、結論は明日でいいでしょう」と、そのまま王サマのプライベートルームのベッドに叩き込まれた翌朝。

はっきり言って、一日経っても困るもんは、困ります。

「…大体なんだよ!?このベッド!!」

俺は昨夜一晩を共にしたベッドを、立って見下ろしてみる。

ベッドはひたすらでかかった。んもう、普通の人ん家の一部屋入るんじゃないの?ッて位広かった。だって寝相が悪いのを一つの取り得としてる俺でも使いきれなかったもん。

しかし、本物の国王陛下はこのベッドを完全に使い切って寝ていたとか。どんな寝方をしてたんだろう。

もう一回ベッドに潜り込んで様々な寝方を試行錯誤していた最中、コンコン、と扉が控えめにノックされた。

、もう起きていますか」

「あ、うん」

俺の返答を聞いて入って来たグルーストは、既に昨日と同じ制服姿に着替えていた。しかしスーツ姿が良く似合う!

だって、着てみれば結構サマになると思いますよ」

「またまたぁ、お世辞にしか聞こえないって」

これに着替えてください、と手渡されたのはゆったりとした黒い上下。王様のお召し物とはとても思えない程に質素、いや、シンプルだった。

なんだろう、なんだか上の服が妙にゆったりしすぎているというか。

「着替え終わったなら、これからはラフォード・リーヴ陛下と名乗ってくださいね」

「いや、まだ返事してないんだけど」

「え?断るつもりだったんですか?」

あーあ、それ聞いたらナフェス、どうするだろうなぁ、とグルーストが付け足したところで、ゾクリと悪寒が走った。あの人には一生逆らえないんだろうな…

この人も結構、確信犯だけど。

…ん?ところでリーヴって。

「確かグルーストも…」

「ええ、姓は同じです」

「えっ!?じゃあグルーストって王家!!??」

「まあそうですけど、本家ではないので、そう凄いこともありませんが」

「…さあ、話はその位にして下さい」

気付いたらナフェスがすぐ後ろに控えていた。って、いつからいたんですか。

「食事にしましょう。さ、陛下、こちらへ」

はいはい、分かりましたよ。やりゃいいんでしょ、やりゃ。



案内されたのは、物語でよく出てくるような中央に十数人も座れそうな長テーブルの置かれた大広間だった。

俺はそこで、いわゆる上座、分かりやすく言えばお誕生日席に座らされ、あとの二人は適当に座った。俺も適当でいいのに。

その後少なくとも何人か座るのかと思ったらびっくり、周りに控えているのは皆給仕をする人たちだけで、食事をするのはこの三人だけらしい。なら、こんなでかいテーブルじゃなくてもいいじゃん。無駄に寂しいし。

ナフェスが席に着く前にパンパン、と二度手を叩くと、給仕の人が次々とコースを運んできた。どれも市場などでは手に入らないような代物ばかりだ。

盗賊なんて動き回る職業柄、食欲には自信があったのだが、それでもコースは食べ切れなかった。残すのは良心が許さないので痛む腹を誤魔化して詰め込んだけど。

二人は適当に食べて下げさせていた。こういうトコから始まるんだよ、環境問題とかさ。

後で徹底的に言っておこう。

「…さて、それでは早速とりかかりましょうか」

ナプキンで口元を押さえていたナフェスがまた手を叩くと、沢山のメイドさんが…

「…―――って、あれー!!??」

俺を連行した!!

「立派な『陛下』になってきて下さいね〜」

グルーストはひらひらと手を振って見送る。ちょっと誰か事前の打ち合わせ位してくれ!!



数分後。

「…た、ただいま…」

「おかえりなさい。…おお、流石に良く似てますね!」

「あはは、あの、これさ…」

よたよたと帰って来た俺は、すっかり慣れ親しんだものから変貌を遂げた頭部を抑える。

「…ポニーテール、だよな?」

こくり。

両者、首肯。

「あとこれさ…」

さらに変貌を遂げた胸部にも手をやる。

「なんか、いろいろ詰められたんだけど…」

ストッキングとか、茶碗とか。

こくり。

両者、またも首肯。

「…陛下は、女性ですが」

なんですとー!!??

「いやっ、そんなの聞いてないし!!」

「え、もしかして、知らないまま承諾したんですか?」

「断る余地も与えなかっただろっ!!?」

あぁぁ…

なんてことだ。齢17にして、女装を強要されようとは。

沈む俺の前に、ナフェスが鏡を持ち出した。

「ほらほら陛下、すっごい美人さんですよ〜」

「そんなこと男が言われても喜ぶワケ無いって、あんたも男ならわかるだろー!!?」

テンション、更に一気に急降下。

でも鏡に映った自分は、確かに美人だった。決してナルシストとかそういう類ではないと予め断っておくが。




すっかり変貌をとげた自らの姿に失望しながらも、二人に城内の案内をされていた俺は、城外での馬の嘶きを耳にした。

「あれ、誰か来たの?」

「ああ、帰ってきたかな」

迎えに行きましょう、とグルーストに促され、城から出ると、そこにはたった今遠征を終えたところ、って感じに兵を率いたリーダー格の男が、馬を宥めながら鞍を外しているところだった。

男といっても成人はしていない。せいぜい18ってところ。

「17ですよ、彼は」

じゃあ俺と同い年か。グルーストやナフェスと違い、輝くブロンドが目に痛い。

こちらを向くと瞳は深いビジリアンだった。少年でも落ち着いた感じがする。でもやっぱ美少年。

「おかえりなさい、ヴィフス」

「ああ」

返答もそこそこに、彼は俺をじっと眇めた。なんだか心まで見透かされそうな錯覚に陥る。

「…よく似ているな。良かった」

「?、何が」

「国に混乱をもたらさないでいられる」

それだけ会話を交わして、彼はそのまま城へ入って、自室に引っ込んでしまう。ナフェス曰く、「身支度を整えたら、すぐにやって来ますよ」との事。

俺も部屋に帰って、グルーストから彼の説明を受けた。

「彼の名はヴィフスライト・デューター。長いのでヴィフスで構いません。二卵性だから似てないけど、本物のラフォード陛下とは双子で、彼が弟。父親が違ったり、まあ色々な事情があって姓は違いますがね。そして陛下達の両親は、母君がリーヴ家に嫁いだので、ヴィフスは王家との血のつながりはありません」

「…なんか、こんがらがってきたかも」

「まあ、追々分かっていきますよ。…さて、まあ陛下に知っておいて欲しい、生活を共にする臣下の紹介は大体この程度です。なので」

「早速、仕事にとりかかっていただきますよ!」

そういいながら、さっきまでいなかったナフェスが書類の束を顔が隠れる位まで積み上げて持ってきた。執務室は王の部屋の隣にあるので、そのまま書類を部屋に持っていく。

「え、ちょっとまって、素人に国政本気でやらせんの!!?」

ムリムリムリーそれはムリだってぇー、といいながら否定する俺を、がっちり捕縛したグルーストが連行していった。





約一時間後。

「…そろそろ少し休憩しましょうか」

「うん…ちょっと待って。先、休んでていいから」

すっかり仕事に没頭した俺はペンを一向に放そうとしない。といっても、やっぱり素人に国政はムリ、というか本物の王様自身あまり頭の出来が芳しくなかったようで、元々書類はすべてナフェス及びグルーストが目を通して許可の必要なものだけ王に回すシステムだったらしい。つまり、俺の仕事はひたすらサイン。盗賊の傍ら、その手の方面にも手を出したことがあるので、筆跡を変えるのはお手の物。

「お、お前は馬鹿か!?仮にも国王という者を退けて休みを取る臣下などいるはずがないだろう!!」

俺が仕事を始めてすぐにやってきたヴィフスが、俺の言葉に噛み付く。

「そんな怒ることないだろー!?それに、そんな事言うなら、仮にも国王サマって相手に馬鹿は無いだろ、馬鹿は!
…まぁとりあえず、ホントにあとちょいだから。キリが良くないと、俺の気が済まないんで」

クスリ、と笑う声が聞こえた。その笑い声は次第に大きくなる。

「性格までホントに良く似てますね、ときたら」

失礼、と言いながら口元に手をやってグルーストが笑い始める。そんなに可笑しいもんかね。

「…ふう、おわった、と」

一時間にして山一つを看破した。初めてにしなくとも、いい出来だろう。

しかし。

「一時間×カケルいくつだろうな…これ」

残りの山は未だ高く積み上げられていた。

「ま、地道にやっていきましょう」

そう言ったグルーストはお茶を持ってきた。盆の上には茶菓子も乗っている。

「うっわあ、美味そう!!お茶もいい香り!」

「一応、コレも本業ですからね」

そういえば彼の本業は執事であった。俺の部屋と執務室は、極力プライバシーと情報を守る為に給仕を入れない。その為、執事はお茶汲みの技術も必要とされるのだ。書類も見たり、大変そう。俺なら御免こうむりたい。

カップに注がれた茶を2〜3杯と、お茶菓子を少々戴いてから、またサインにとりかかる。

「こんなにサイン求められたら気分いいよなぁ。人の名前でなければ」

「そうか?俺は嫌だ。考えても見ろ、サインを求める奴は皆、取引先の事業主や他国の王ばかりだ」

「…やっぱり嫌です…」

そうだろう、と妙に満足げにヴィフスが頷く。

さて仕事仕事、と次なる書類は、小さめの封筒に入っていた。便箋も華やかで、招待状のようである。

「…なにこれ?」

「え?…ああ、そういえばさっき情報管理科の奴から受け取ったな。ほかの書類と違って小さめだから、紛れ込んでしまったようですね」

グルーストは覗き込みながら言った。

「ダンスパーティーの招待状のようですね。送り主は…隣国の王から。読めませんか?」

「何となく…癖が強いとちょっと難しいな」

なんせこの国来てから数ヶ月だから。

それにしても、ダンスパーティーか…

「面白そうだよね、ダンスパーティー」

「そうですね、最近陛下の謁見が無いのを訝しく思う国も多かったことですし。これを機に、疑惑を払拭させなくては、この国を狙う輩がいつ動き出すか解りませんし」

「ということは、この『ラフォード陛下』は女装をするのだな?」

「ダンスも女役を覚えなくてはなりませんね」

「え゙。……あぁー、…いや〜、やっぱり止めようかなー、なんて…」

「陛下の替え玉としてどれほど信頼を獲得できるかも見極められる良い機会ですね」

「いや、やっぱり、いきなりパーティーってのは難易度高いかなー、とかぁ…」

「「「行きましょうか(行くか)」」」

本気マジですかー!!?



17歳、どうやらしくじった模様です…





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ひさびさにちゃっちゃかUPの第二話です。
さり気に名前どっかからパクッたりしちゃったりしてます。(ちょ待て)
なかなか区切りがつかなくて、今回だらだら長目になってしまった;;