六人目の役目
「…ここはドコなんだ――?」
俺の前に広がるのは、車と、仕事へ向かうサラリーマンたちの行き交う一面の都会風景であった。
振り返るとそこには十数年付き合い続けてもう見飽きた俺の家の姿。
でも背景は十数年見続けたそれとは違っていた。
ハルヒか?ハルヒの仕業なのか?
俺は重度の混乱に見舞われ、行き場を失った。
学校?いける訳が無い。
どの道を行けば着くのか。そもそもこの世界に「学校」があるのだろうか。
呆然と立ち尽くした俺の視界に、不意に見知った奴の姿が映った。
この事態の元凶であるだろう確率の大半を占める奴、ハルヒである。
「ハ―――、」
ルヒ、と言いかけて過去の記憶が俺に歯止めをかけた。
ちょっと待て。アレは「ハルヒ」なのか?
長門がやっちまった時みたく、呼びかけて変な奴と冷たい視線を浴びせられるんじゃないのか?
あの「ハルヒ」は俺を知っている「ハルヒ」なのか?
その困惑はさらに俺の頭を重くしたが、直後に「ハルヒ」自身の手で打ち砕かれた。
「…あ!キョン!キョンね、その間抜け面は!!」
キョロキョロと辺りを見回す視線を俺に固定すると、ずかずかと此方に寄って来た。
「ねえココなんなのよ?ウチから一歩出たら全然見覚えない風景広がってるし、帰って親父に聞いてみたら『何をいまさら』って変な目で見られるし!」
俺と同じ疑問を持っている点からしてみると、コイツは俺の知ってる「ハルヒ」で相違ないらしい。
その事実に俺は少なからずホッとさせられる。
「…俺もよく分からん。今朝起きて支度して出たらこの有様だ。…それにしてもお前、よくココまで来られたな」
「ああそれはね、ココ、見た目は違うけど地形は変わってないのよ。ウチの周り散策してる間に気付いたわ。だからここから学校だってチョロイもんよ」
それにしても、今まで目印にしてたモンが色々変わってちゃ、道は同じくとも迷子の一つや二つは…まぁ、コイツのことだ、平凡な人間と照らし合わせるのは止めておこう。
しかし、見知らぬトコでもハルヒの行動力は健在なワケだな。全く、感心するね。
これでハルヒとは合流したわけだが、他のメンバーはどうなんだろうか?あの時みたく、また二人っきりはやめてくれよ。
「長門と朝比奈さんとと古泉はどうしたんだろうな。いるのか?」
「見つけてたら私がとっくに連行してるわよ!あんた、脳ミソだらけすぎてんじゃないの?」
そうだろうとは思ったけどな。念の為に聞いてみただけさ。
「まぁここに居てもしょうがないわ。学校行ってみましょ」
そういって俺の手をむんずと掴んだハルヒは、ほぼ引きずる体勢で俺を学校へ連行していったのだった。
校門前に着いてみると、幸いなことに四人で全員集合している状態だった。
見ると朝比奈さんは目がやや赤いではないか。なんてことだ。
「あっ、ち、違うんです、あのこれは、みんなに会う前にちょっと泣きそうだっただけでっっ!」
俺が古泉を睨みつけているのに気付くと、朝比奈さんは泣きべその理由を必死に話してくれた。
そんなことなら、俺の第六感を駆使してでも朝比奈さんをすぐに探しに行けばよかった。俺の第六感がどこまで頼りになるかは判断しかねるが。
「それにしてもみんな見つかって良かったです」
ホッと息をつく朝比奈さんの微笑みは、それはもう極上モノだった。
しかし団員の一人の様子がいつもと違うことに気付いた俺は、残念なことにも、その笑みを見ることが出来たのはほんの一瞬だけであった。
全員揃ったことで、ハルヒのエネルギーは完全に充填されたようだ。
「こんなトコで立ち止まっててもしょうがないわ!喫茶店いくわよ!!キョン持ちで!」
さりげなく俺持ちか。
こぶしを振り上げたハルヒはそう仕切ると、駅方面へそのまま向かい始めた。
先頭を切って歩くハルヒが後ろの状態を確認できない状態であるのを確かめた後、「そいつ」はゆっくりと歩を緩め、古泉の反対側、俺の隣へやってきた。
古泉は気を利かせたように、それとは逆に歩調を速める。
「…あまり望ましい展開ではないな」
古泉が十分離れたのを見計らって、前方を見詰めたまま語調を弱めて俺が話す相手は、他でもない。だ。
「そうですね」
も前方を見詰めたまま答える。
「こっちの世界がなんなのか、わかります?」
「世界の裏側、か」
ご明察、と語調を和らげると、まるで古泉みたいだった。
今までとはまるで雰囲気が違う。
「なんで俺達はここに居る?ここでのハルヒのポジションは何だ?お前は今まで分からないフリをしてたのか?お前は何のためにハルヒに近づいた?」
一気にまくし立てられ、は腕組みしてわざと考えるフリをしてから、順番に話しますね、と前置きした。
「ココにいるのはまず、紛れも無い涼宮さんの願望です。昨日のひな祭りのせいでね。
あと三つの質問に答えるには、まず世界の仕組みについて話さなければならないけど、構わない?」
「ああ」
俺がそう言うと、は一回息を吸ってから話し始めた。
「…まず世界には、裏と表がまさに表裏一体となって成り立っています。私たちからしてみれば今ここに居る世界が表な訳だけど。
裏と表が一対でいるにはバランスが取れていないといけない。その為に、それぞれの世界にそれぞれ同じ人間が一対ずつ存在します。いわばドッペルゲンガーってもの。だから勿論この世界にも貴方や朝比奈さんや長門さんや古泉君も存在します。ほぼ貴方たちにとっての『表』の世界と同じ人格、人生を送っている。
でも心配しないで。ドッペルゲンガーに会ったからといって死ぬなんてのは、今更ながら迷信だし、いまの貴方たちはこちらの世界の人格と同期してるから会う可能性すらありません。
…で、この世界で涼宮さんに見られる特異性というのは、『この世界に存在しない者』だということ。
涼宮さんは、貴方たちの世界にしか存在しないんです。
それなのにどうして世界はバランスが取れているのか?私達、涼宮さんの存在に気付いた組織は、涼宮さんがこちらの世界での対であるべき人格を一人で併せ持っているのでは、と考えています。
―――良くも悪くも、世界を簡単に生かすも殺すもできる存在、それが人間です。信じられる?そんな人間の人格はただでさえ一人の器に一人分が限界なのに、二人分の容量を持っている、なんて。そういった反対意見もやっぱり数多くあったの。そこで私達は、組織の一人を向こう側の世界に同期させ、その意識をもって涼宮さんを観察することにしました。
それが私。私が向こうの世界で何も分からない状態だったのは、向こう側で私が何も漏らすことのないよう、向こう側の私の記憶を引き継いだ為です。向こう側の私は、なんの変哲もない、ただの高校一年生だから」
そこまで一気に言うと、はふう、と息をついた。
「解ってもらえた?」
「まあ五分くらいはな」
「それ位解ってくれたなら十分」
そう言って満足そうに微笑んだ。
「あいつら…古泉たちは知ってるのか?」
「恐らくは。それぞれの属するところで色々調べられただろうから。
…でもこの世界に来てもらって良かったかも。なんだかんだ言っても、やっぱり全部話したらすっきりしたわ」
「俺も、新入団員の役割分担がはっきりして、すっきりしたよ」
憎まれ半分に言う。また厄介な組織が混じり込んじまったんだから、この先の自身に降りかかる苦労を憂えて少しくらい憎まれ口を叩いてもいいだろう。
話が一段落ついて、俺達は少し前を行く古泉の横についた。
「お話は済みましたか?」
「まあな。いい加減脳ミソが容量切れを訴え始めているが」
「それはいけませんね。アップデートが必要ですか?」
「いや、いらん」
冗談に取れないんだよ、お前のは。
そして最大の問題。
「…帰りの方法は解っているんですか?」
「いや、それが、コイツにも解っていないらしい」
「それは、つまり…」
「…ああ;;」
本格的に、緊急事態かもしれん。
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うへぁぁぁ…;;(怪しい悲鳴)
ひなまつり翌日のはずが今もう六月ですよ。夏ですよ。
久々すぎてハルヒがやったイベントが何だかド忘れしましたよ。←
そして長門喋ってないよー!!
シナリオ即席でこの先話やってけるか不安だよー!!(知るか。)
ヒロインの役所を考えるのがしんどかったです;;
さぁどうやってキョンたちを元の世界に帰そうか??
いやむしろずっとこの世界に居候…(こら。)