Sleeping Beauty
「…うっし、仕込み終わり!」
昼食の支度を終え、時間が空いたサンジは溜まった疲労を回復すべく、持ってきていた毛布に包まってテーブルに突っ伏した。
程よく睡魔が襲ってきて、数秒と経たぬうちに瞼が落ちてくる。
間もなく規則的な息がキッチンに響き渡っていった。
…ノド渇いたなぁ、何かもらってこよう。
読みかけの本を一旦とじて、は甲板からキッチンへ向かった。
トントン。
「サンジ、何か飲み物を…おっと」
入って目の前に、机に突っ伏したサンジがいた。
規則的に聞こえてくる息から、もう寝ているのだろうと判断したは、足音を出来るだけ忍ばせて冷蔵庫に水でも無いかと探し出し、グラスを持って退却しようとした。
しかし、扉を開けて出て行こうとしたは、ふと足を止めて振り返る。
「…そういえば私、サンジの寝顔見たことないんだよね…」
料理人という仕事柄であるため、いつも人より早く起き、人より遅く寝てしまうサンジの寝顔は、は付き合いだしてからも一度も見たことがなかった。
すすすっと歩み寄り、テーブルに顔を載せてサンジの顔と同じ高さに目線をやると、気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
「子供みたいな寝顔ってよく言うけど、ほんとにそうなんだ…」
思わず可愛いと感じてしまい、頬を緩ませる。
「ちょっとだけ…」
起きてしまうかもしれないとも思ったが、はそっと顔に覆いかぶさる前髪(ただし、右側)を払った。
子供のような寝顔が顕わになる。
この機会を逃すと次に見る機会がいつになるか知れないので、は思い切りその寝顔を目の裏に焼き付けてからキッチンを出た。
パタン…
足音が遠ざかるのを確認してからサンジはぱっちりと目を開いた。
「…眠れねェ;;」
未だに毛布の下では心臓がばくばく言っている。
仮眠をとろうとしたハズのサンジだったが、そのすぐ後の物音によって意識が引き戻され、更にその後の声によってだと分かったことで、サンジの意識は完全に覚醒してしまったのだった。
かといって起きるのも何だか気恥ずかしく、そのままにしていたらあんなサプライズがあったという顛末である。
しかし…
「せっかくだから寝込みを襲うくらいのことしてくれても良かったのにっ!!!いや寧ろあそこでちゃんを捕まえて逆に襲っとけば!!!」
サンジは悔しさでテーブルに額を擦りつけた。
狸寝入りをしていたサンジの脳内は、実はあーんな事やこーんな事など、不埒な期待と妄想で一杯だったのだ。
と、そんなキッチンに妙な視線が一つ。
「不毛ね…」
見張り台の上で目を閉じていたロビンがふと目を開いて溜息を一つついた。
「はもともとだし、コックさんもああ見えて純粋だから、まだまだ先は長そうね」
それはそれで楽しみだと、ロビンは機嫌上々でキッチンから出てきたを眺めたのだった。