タバコのかわりにキミを頂戴。






…気のせいだと願いてェところだが…

…――おれは最近、避けられている気がする。




「…ちゃん?」

「…よ、寄らないで…っ!!き、気持ちわるっっ…!!」

ドダダダダ…ッ、バタン!!


「…」

ぼー然。





「…どう?チョッパー」

「神経性の頭痛だな」

「分かりやすく言うと?」

「…ヤニの匂いにやられたって」

ここは女部屋。

部屋にいきなり駆け込んだと思ったら、そのままベッドに沈み込んだに何事かと、すぐさまナミはチョッパーを呼んできた。

その騒ぎを聞きつけて、他のクルーも集まる始末。

しかし吐き気のあまり動けないを診断してみたら、どうということはない。

ただ匂いにあてられて頭痛が酷くなっただけだ、との事。

心配かけんじゃないわよ、とナミに頭を小突かれたが、本人としては深刻だ。

枕に顔を押しつけて現在も必死に吐き気と格闘中である。

はァ、とため息をついてナミは人だかりの出来た扉の辺りを眺め、ここにいない唯一のクルーの所在を問う。

「…で、サンジくんは?」

「キッチンで撃沈してるわ」

頭痛を和らげるようにの頭に手を乗せて撫でていたロビンは、かわいそうに、と呟いた。

ここ数日、ようやく"でき上がった"自分の恋人にあからさまに避けられた挙句、今日になってやっと話しかけてみたら理由も分からず「寄るな、気持ち悪い」の一言。

破壊力は十分だった。

とりあえず集まった野次馬どもをナミが蹴散らし、扉を閉めると部屋はしん、と静まり返った。

「…あー、しんどかった…」

ようやく気分が回復してきたが、ごろりと寝返りをうって仰向けになる。

「アンタねェ。サンジくん、いたたまれないことになってるわよ?」

「悪いとは思ったんだけど…」

「煙草の匂いは、苦手な人にとってはたまらないでしょうからね」

発した言葉が言葉だとは言え、結局、にも非はないのである。

しかし、こうなると…

「どうするのよ?この先。こんな状態じゃいつまで経ってもサンジくんとイチャイチャ出来ないわよ?」

「ナミ…表現が、ちょっと…;;」

「何よ、なんか間違ってる?」

「いえ…」

どうせ人目も憚らず仲良くするんでしょ、と皮肉たっぷりのナミの言葉に、は目を泳がせる。

「そうだなぁ…おれも時々言うんだけど、やっぱりサンジ、煙草少し控えた方がいいんじゃないかな?
健康面も心配だし…」

「そうよチョッパー!いっそ強制的にドクターストップかけちゃいなさいよ!」

「いや、それはちょっと…」

ナミが意気込んでそう言った時に弱々しくも止めたのは、他でもないだった。

被害(?)を受けた本人が止めるとは、とナミが怪訝そうな顔を見せる。

「何であんたが止めんのよ」

「や、なんていうか、その、…もったいない、というか…」

「何?ちょっと、はっきり言いなさいよ」

ちょっと顔を赤くして視線をさまよわせながらモゴモゴいうの意図をどうにもナミが汲み取れないでいると、その様子を見てクスリと笑ったロビンが一言。

「絵描きさんは、煙草を吸ってるコックさんが好きなのね」

「はあ??何よ、そうなの?」

「うん、まあ、……そんなトコ」

毛布を目の下までたくし上げたを見下ろして、ナミは呆れかえったようにため息をついた。

自分がこんな目にあっといて、何を言っているんだか。この娘は。

とんだバカップルだ。

「…チョッパー、とりあえずサンジくんにの病状教えてあげといて。誤解させたままだから」

「あ、うん。分かった」

たたたっ、と出て行ったチョッパーを見送り、ナミはの枕元に腰かけてむんぎゅ、と頬をひっぱった。

「…で?どうすんのよ?」

「ひでででででッッ!!!(泣)こ、こくふくひまふっっ!!」

「克服ぅ?ホントはする人間が違うんじゃないかしらねェ…」

サンジくんが吸わなくなればいい話なのに、と嘆息しながらつねったままでいると、手!手!とが涙目でナミの手をぴちぴち叩いていた。






「ヤニの匂い、ねェ…」

チョッパーの言葉を聞いて初めにサンジが感じたのは、やっぱり『安堵』だった。

「気持ち悪い」と言われた時には、それはもう、天地がひっくり返る以上の衝撃を受けたものだ。

とりあえず、自分に直接向けられた言葉でなくて良かった。

しかしそこで一息つくも、問題はそこでは終わらない。

このままでは、いつまでたってもちゃんとお近づきになれないではないか。

「どうしたもんか…」

やっぱ止めるっきゃねェのかな〜…

レディの、それもちゃんの為というなら二つ返事で止めてやる、と言いたいところだが。

生憎、長年の付き合いで染み付いた癖と禁断症状がそうも簡単にはいかせてくれない。

手が震えるとまではいかないだろうが、やっぱり苛立ちが募ると煙草に自然と手が伸びてしまう。

何か他に気を紛らわせる方法でも見つかればいいのだが…

そう考えていると、不意にキッチンの扉がキィ、と開いた。

そちらに目をやると、申し訳なさそうにしているの姿。

ぺこり、と深くおじぎをすると「ごめん」と言った。

「悪気はなかったんだけど、その、色々やばかったというか…気、悪くしたよね?」

「あァいや、チョッパーに聞いた。どっちかっつーと、おれの所為だったんだよな。こっちこそゴメン!
煙草のコトも、ちゃんの為にもさ、どうにか止めようと思って…」

「ああ、いいの!気にしないで!私が、克服するから」

ばっ、と手を前に突き出して言葉を打ち切るとそう宣言したに、サンジは言葉の意味が呑み込めず、思わず訊き返した。

「は?あの…克服するって、…ちゃんが?」

「そう!私、ヤニの匂い克服する!」

そう言うとはつかつかと呆気にとられているサンジの方に寄ってって、すぐ隣に座った。

肩に頭を凭れてすっかり寄りかかる。

ぱっと見、微笑ましい構図なのに、そのの眉間には浅くしわが刻まれている。

「眉間が寄っていますよ、姫」

そう言って眉間を親指でそっと伸ばすと、「ん゙〜」という声が返って来る。

自身から言い出したこととはいえ、レディにこんな顔をさせるのは忍びない。

「…やっぱりさ、ちゃん。おれも煙草の本数減らすよ。ちゃんにばっか無理させるのは厭だし」

「えぇ〜、だってサンジずっと吸ってたんだもん。辛いでしょ?吸わなくなると」

「そりゃァ、辛くねェとは言えねェよ?
でも、ちゃんも頑張ってるしな。それに」

ちゅっ。

「…えっっ!??」

「ウン、これならいけるかも」

預けていた頭に顔が被さったと思うと、いきなり唇を奪われて混乱状態のを傍目に、サンジは納得顔で頷いた。

「ななな何が!?どどどういうことっっ??」

ちゃんのキスがあれば、おれ禁煙出来るかもしんない」

そう言うと、サンジはの身体をぎゅう、と抱きしめた。

「くっついてればちゃんのヤニ嫌いの克服にもなるし、一石二鳥ってコトで?」

「えっ、う、うーん?」

「…あー。今、煙草吸いたい」

首を捻るの隣でそう呟くと、もう一度サンジは唇を塞いだ。

今度はちょっぴり長めのやつを。

しばらく味わってから解放すると、が酸欠気味に肩で息をしながら言った。

「…な、なんかっ…い、いいように、理由つけてない…っ??」

「そんなコトないさァ。…それともちゃんは厭?」

口調はなんだか寂しげなのに、顔を見たら喜色満面。

答えが判ってるって顔。

意地が悪いとぼやきつつ、は赤くなってサンジとは反対側を向きながら「厭じゃない…です」と答えた。

その反応に「ちゃん可愛い〜!!」ともう一回キスをせびろうとするサンジを必死に押しのけながら、は、でもやっぱり煙草を吸うトコが見られる機会が減るのは寂しいなぁ…なんて思うのだった。






「…コックさんと絵描きさんは?」

「すっかりイチャついてるわ。あの、バカップル」

「あの二人にかかれば、苦手なモノも仲良くなるための理由に早変わりね」

「まったく、人の気も知らないで…」

「なァ、ナミ、キッチンまだ入っちゃダメなのかァ??腹へったぞ〜」

「さっきお昼食べたばっかでしょうが!!」

「オイ何やってんだ?鍛練続けてて喉乾いてんだ、入らせろ」

「アタシだって喉乾いてんのよ!!入れるもんなら今すぐ入ってるわよ!!!」

「はァ?何言ってんだてめェ。何泣いてんだ」

「おい、止めとけゾロ!ナミは今気が立ってんだ。ヘタに手ェだすと食われるぞ…」

「私は怪獣か!!!」

「いや、怪獣よりえげつねェだろ…」

「だな」

「アンタたちねェ…!!」

「おやつはまだかー!!」








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久々OP夢。
はじめて人並みに甘い夢を書けた気がする。
やっぱり最後は覗き見する野次馬の会話で〆。(笑)あ、チョッパー忘れた。
結構ベタなネタですね、禁断症状を避ける代わりにいちゃいちゃとか。
チョッパーとか煙草の匂い大丈夫なんだろうか…
電車の隣に座った人とかが煙草吸ってたりするとヤニの匂いがやばいんですよね。
でもあからさまに席移れないし…;;みたいな。
そんなときはうおー、早く下りてくれーと願いながら、わずかーに顔逸らしてなんとかやりすごしてます。