体温調節
「あっつぅ…い…」
家から出てきて数分とも立たないのに、青子は顔に汗を流して、手でぱたぱたとささやかな風を作り出そうとしていた。
俺も汗だらだらで、今朝見たテレビでお天気おねーさんがにこやかに言っていたことを思い出した。
「今日、日中36℃だとよ」
「言わないで〜、具体的に聞くと余計暑くなる〜」
言いながら、体温と同じかよ、と思うと太陽を思い切り睨みつけたくなった。
しかしそうして見上げる太陽はぎらぎらと燃え盛り、見る者の体感温度を余計に上げる。
今は通学の真っ最中。
普段なら気にしないはずの道のりが、今日はやけに遠く感じる。
これで教室にクーラーが無いってんだから、ホントに泣けてくる。
わざわざ人間がたむろして熱気の篭った密閉空間へ律儀に向かおうなんて、俺も真面目すぎるよなぁ。
はぁ、とこれから一日のことを考えてうんざりしていると、朝から犬と散歩している主婦の姿が目に入る。
こんな暑い日にご苦労なこった、なんて俺は流していたが、青子は何やら興味深そうにその犬を眺めていた。
ただの犬相手に、何でそんなに興味津々なのかと思っていると、青子がいきなり犬のように舌を出した。
普通なら見ない様な光景に、俺は一瞬ぎょっとする。
「なっ…にやってんだよ、オメー」
「だって、わんちゃんってあんなに毛が生えてて暑そうなのに、汗一つかいてないんだよ?だから、こうしたらよっぽど涼しいのかな、って」
青子は舌を出したまま器用に答える。
青子らしい、素直で単純な発想である。
人が周りにいるのも全く気にしないらしい。
そんな青子に俺はというと、不覚にも可愛いと思ってしまっていた。
可愛らしく舌をべっと出して、何となく上の方を向いている青子は、本気で可愛かった。
心臓の動きが速くなって、思わず顔が赤くなりそうになる。
心臓の音がうるさいくらいに俺の耳に響く。
俺は気恥ずかしくなって青子をからかった。
「けっ、そんなことしたからって、んな簡単に体温なんか下がるかよ」
「何よ〜、やってみなきゃ分かんないじゃない」
出した舌をそのまま「あかんべ」に変えて俺の方に向ける。
結構ヤバイ。
「…んなコトばっかやってっと、奪っちまうぞ?」
「この状態だからって、何を奪えるってのよ。奪えるもんなら奪ってみなさい」
「…あそう。んじゃ…」
ちゅっ。
「…へっ?」
「いただきv」
青子は舌を出した状態のまま、呆然としていた。
俺は唇を寄せただけだが、青子が舌を出していた為、結果的にただのキスよりも深い意味を持った。
俗にいう、べろちゅー。
しかも、青子から。
奪えるモノを奪って満足気な俺に、青子はやっと我に返って拳をふるふると震わせた。
「いきなり何するのよー!!バ快斗!!」
「んなバカみてーに舌だして隙がありすぎんのが悪いんだろー?」
「青子は悪くないもんっ、それにバカみたいってどういうことよ!!」
「バカはバカだろーが」
「快斗の方がバカなくせにぃ!!」
「んだと、こんにゃろっ」
「何よぉ!!」
その後、時間をわすれてぎゃんぎゃん言い合っていた俺達は、ものの見事にHRに遅刻したのだった。
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今日実際水乃も犬見かけてやってました(笑)
ホントに効果あるのかなーって。
あ、周りに人居なかったし、怪しい目では見られてないですよ!多分。
効果は、まぁ、あったっちゃあったのかなぁ?ってくらい。
明らか涼しいってワケではないんですね、やっぱり。
犬ってスゴイなぁって思います。
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