民の上に立つ者として






「あー、しんどい〜」

しん、と静まり返った城の廊下を足音も気にせず通過する。

ちょうど今、会議室から出てきたところだ。

「私、出る必要あるのかなぁ。地位なんて何も持ってないのに」

「馬鹿な事を言うな。お前は一応十貴族以上の権力を有しているんだぞ」

「…それだって、一方的にそう決められただけなんだけど」

そう、ひょんなことで眞魔国にやってきちゃった私は、瞬く間にお偉い方々に囲まれ、瞬く間にこの国で3番目の実権を握らされたのだ。

ちなみに、一番は第27代魔王陛下であるユーリで二番は大賢者の生まれ変わりであるムラケン。といっても、二人はほとんど対等な立場にあるとかないとか。

そのムラケンの魂のご先祖様である大賢者様の容姿が、この世界ではほとんどあり得ない髪も目も黒い双黒であった為、さらに、私が純日本産の黒目黒髪であった為に、来て一日にして言われてしまったのだ。

貴女はこの国で3番目に偉い人です、と。

ただお城でお金持ちな生活を送れるっていうなら、ちょっと居心地の悪い気もするが、喜んで引き受けよう。

だが、現実はそうはいかない。

権力があるということは、発言一つ一つにそれなりの力があってそれなりの発言が期待されるということ。

当たり前のように会議は毎回出席、しかも、上位二人に並んでお誕生日席だ。

本日も十貴族会議が招聘され、今はお昼休みというわけ。

並みの高校生の知識しかないのに、超ベテランの人々に意見を訊かれた日には泣きたくなってくる。

「どうしたらいいんだろう…」

すっかり弱気になってぽつりと呟くと、昼休みが始まってから昼食も摂らずに私の話を聴いてくれていた彼が静かに訊いてきた。

はこの国が嫌いか?」

誰の話し声もしない廊下に、彼の声がよく通る。

予想もしなかった質問に、返す言葉もどもってしまった。

「な、何言ってんの。そんなわけないじゃない」

むしろ、私の暮らす世界より空は澄み渡り、緑は生い茂り、なんて綺麗な国だろうと思った。

眞魔国を知れば知るほど人の温かみを感じて、この国を護っていけたら、とも思うようになった。

「だからこそ…私の発言でこの国が変わるかもしれないからこそ、言葉にするのが恐くなる」

もし、知識を持たない自分が発言して、望まぬ方向に事態が向かってしまったら。

足元を見つめてそう答えると、ヴォルフラムはこの返答にそぐわない態度で鼻を鳴らした。

「そんなことか」

「そんなことって…国一つがかかってるんだけど」

「お前は何の為に会議を開いていると思っているんだ。何の為に十貴族やその他の貴族達がいると?王をはじめとした国の長たちの意見が国を護り、発展させるものかどうか吟味し、遂行していくためだ。
お前はそんなことも知らずに会議に出席していたのか?まったく、十貴族も見くびられたものだな」

「か、返す言葉もございません…」

全く、その通りだ。

自信満々に発せられた、まさに正論な彼の言葉に、私はすっかり打ちのめされた。

会議や貴族といったもののシステムは知っていたつもりだったが、改めて言われると判っていなかったのだと実感する。それほどまでに自分は彼らを信じていなかったのだろうか。

反省の言葉が頭をもたげている中、彼は自信に満ちた声で続けた。

「それでも彼らを信じられないというなら、ぼくを信じろ。ぼくがお前をお前の望む方向へ押し出してやる。


…ぼくがを支えてやる」


最後の一言だけ、語調が柔らかくなった。

私は顔を正面から隣に向けて、彼のエメラルドグリーンの瞳を見つめた。

いつも自信に満ちている彼の瞳は、どこまでも澄んでいた。

私はなんて素晴らしい人々に支えられているのだろうと、なんて幸せなのだろうと実感してしまう。

「…ありがとう、ヴォルフ」

真面目になってそう言うと、たちまち彼は顔を真っ赤に染めて背けてしまう。声も裏返り気味だ。

「べ、別にぼくは、ビーレフェルトの次期当主としてだなっ、この国に来て間もないお前に、民の上に立つ者の心得を教えてやるという当然の義務を果たすと言っただけでっ」

「うん、わかってる」

わからない時や、力が足りない時は、ヴォルフラムが支えてくれる。

「さぁて、それじゃ午後の部も頑張りますか!」

ここまで言われたら、弱音を吐いてはいられない。







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ちょっと真面目くさったお話になりました。
わがままな三男も好きですが、やっぱり男前な三男が一番好きww
わがままプーがいっちょまえに国の話とかするとほれぼれしますw
こんなに大人になっちゃって、な気分(笑)