「まだ足りん…肝心なパーツが…」

そう考え込む平次に和葉が身を乗り出して聞く。

「なぁなぁ、分かったんか、平次?分かったんなら早う聞かしてぇな」

「あーもう、やいやい言いなや。まだ完全には解けてへん言うとるやろ」

「じゃあ途中まででもええから教えて?」

「ダメや。完全に解けてからでないと」

「ふんだ、平次のケチ」

「言うとれ」

和葉を軽くあしらってまた文面に没頭する平次。

その様子を見て、快斗は腰を浮かせた。

「んじゃ、俺そろそろおいとまするわ」

予告状の謎解きに口をだして、ジュースを啜っていただけで結局何をしにきたのやら。

「おう、そうか。気ぃつけてな」

快斗が手を振り退出していくのを視界の端に捉えながら、平次は黙々と文面を見続けた。

しかし、沈黙も長くは続かず、没頭すればするほど独り言が多くなる。

「あと一文字が足りんのや…せやけど、文は八行で合ってしもうとる…
あーくそっ、それとも、オレの推理が間違うとんのか!!?」

平次の独り言が多くなり、頭をかきむしっていると、脇から和葉が独り言に疑問を呈した。

「なぁ、平次…さっきから何言うとんの?八行しか文無い言うとるけど、実際は十行あるやん」

「阿保。本文は八行だけで、あとの二行はキッドの名前と、追伸しかあらへ…ん…?」

平次はふと文面の端に視線を寄せる。

「成程…九行やったっちゅうことか…」

「何?今度こそ分かったん、平次?」

「あぁ、見つけたで。最後のパーツ!!」

自信満々に顔を輝かせる平次を見て、和葉も嬉しそうにそわそわしだす。

「じゃ、教えてぇな!せや、オトンにも連絡せんと!!」

「せやな。…7月8日の午前0時に来るよう伝えるとええわ」

大急ぎで携帯を取り出し、連絡をとる和葉の隣で、平次は何かを企んだような笑みを浮かべた。




7月7日午後10時、5分前。

平次は一人で大阪古美術展にやって来ていた。

キッドの予告時間を12時より後と伝えられた警察はココにはおらず、営業時間を過ぎた館内は照明一つ灯っていない状態で、ひっそりとしていた。

平次は時計の針に目を凝らして、10時になるのを待っていた。

10時。

キッドの獲物の前に陣取っていた服部は、不意に人の気配を感じて口を開く。

「見えてんで。…怪盗キッド」

「今日は観客が異様に少ないと思ったら、本日の客は君一人か、西の高校生探偵君?」

「心配しぃなや。警察にはキッドの予告時間は12時やと伝えてある。当分ここには来ぃひんで」

ズボンのポケットに両手を突っ込んで、こつこつとキッドに歩み寄る平次。

キッドは些か不意をつかれたようだが、ポーカーフェイスは崩れない。

「わざわざ一人で来るとは…この俺に何か用でも?」

「別にあらへん。ただ、ちぃと話がしたい思てなァ。こう自分とゆっくり話すんは初めてやろ?」

平次はキッドとの間に三歩分くらい間隔をあけて立ち止まり、ポケットから予告状をとりだした。

「よう凝っとる挑戦状やったわ。オレでも解くんにある友人のヒントが必要やったからなァ?」

「…」

黙って話を聞いたままでいるキッド。

平次も話を続ける。

「この暗号の主役は恋人、つまり織姫と彦星や。そしてポイントは、今回お前のターゲットでもあるこの宝石の名前の『乙女の涙』。
今回初めて予告状を縦書きにした理由をお前はこう書いとった。『乙女のごとく地に落ちん』。本文見てみると、乙女の涙は八粒落とした言うとる。
一年に一度再会する織姫と彦星の英語名は『vega』と『altair』。予告状の本文は丁度八行。ここまでの情報を上手ーくあわせて、vegaとaltairのつづりを混ぜ、
『聖母』と『一族の長』をマリアとノアに書き換え、それぞれの文を涙と見立てて、文末の文字の子音をアルファベットに変換してつづりから落としていくと、上手い具合に『t』と『e』だけ残る。
せやけど、ここで一回分からんなったんや。この二文字で『ten』、即ち10時ゆうんは読めてたんやけど、残りの『n』だけがどうしても見つからへん…
しかし、お前はもう一文用意しとったんや…この、『P.S.』をな。
『P.S.』は追伸、即ち、付け足しを意味する。そんでこのP.S.の最後の『ん』の音を足すと…ちゃーんと『ten』になったんや。
どや?間違うとるか?怪盗ハン」

キッドはイタズラ坊主のような笑みを浮かべて話を聞く間一度も開かなかった口を開いた。

「…流石は西の高校生探偵。ご名答だよ」

その言葉を聞いて、満足げな笑みを浮かべた平次はそのまま背を向けて立ち去ろうとした。

「せやったら満足や。さっさと盗るモン盗ってはよう行き」

「なっ……はぁ?」

せっかく予告状の謎を解いてここまではるばる来たというのに、答えあわせを終えるとさっさと帰ろうとする探偵に、怪盗は流石に調子を狂わされた。

「どういうコト?」

「今日んトコは謎解きで満足したから見逃しといたるわ。せやけど、次会うた時は本気で捕まえに行くで。…せや、気ぃすんだらいつも通り宝石返すんやで」

背中を向けて歩きながら、平次はヒラヒラと手を振った。

「…お前に言われるまでもねーよ」

立ち去る平次にそう呟くと、キッドは月に宝石をかざして中に何も見えないのを確認してからカードと共に宝石を元ある場所へ戻した。

カードには『ショーの時間になっても観客がいらっしゃらない為、本日は中止させていただきます』という文字が口をへの字にまげたキッドマークと共に書かれていた…




翌日の紙面。

一面にでかでかと『怪盗キッド、警備に怖気づいて宝石も盗まず敗北宣言!?』と。

隣の小さな写真に照れて頭をかきながら厳重な警備の中インタビューを受ける中森警部の写真が載っていた。

「だから……なんでこうなるんだってーの!!ちゃんとカード置いたろがっっ」

朝から教室で新聞を読みながら不機嫌そうにする快斗の姿が見受けられたようで…




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作っちゃった〜;;とうとう小説を。
無い才能を絞りに絞って予告状作ったんですが、ちょっとムリあるかなぁ〜;;
こう、作る側じゃなく見る側からも難しくても納得できる糸口と解き方がないといけないってのが、本当に難しい(泣)
「ん」見落とすとか、超凡ミスさせてごめんね平次…;;でもそうしないと話盛り上がらなくて;;
なんでわざわざ大阪まで快斗を出張らせたかは、関西弁が書きたくなったってのと、平次と仲良くする快斗が書きたくなったからです。
つまりそれだけ。
あ、キッドマークはペイントでひたすら頑張りました(笑)
っていうか、平次相手の場合、キッドは丁寧語なのかコナンのときみたく普通に話すのか…??
白馬には普通に話してるから、やっぱり普通かな?と思って普通に話させました。
でも丁寧語なキッドも書きたかったな〜…とか思いつつ。



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