気付いたのはいつ頃からだろう。

自分の視線が一定の対象ばかりを追い求めていたことに。

気付いたのはいつ頃からだろう。

自分が一定の対象の前ではいつも通り振舞えなくなったことに。



unrequitedカタオモイ or requitedリョウオモイ ?



午後三時。

予め仕込んでおいた特製フルーツソースをかけ、我ながら自信作であるフロマージュを盆に載せ、まずテーブルについていたレディ達の元へ向かう。

「あら、おいしそう」

「今日はナミさんから頂いたミカンで作った特製ソースですv」

「素材が最高だから、味は超一流ねv」

テーブルにいたのはナミとロビンだけだったので、レディ三人分を載せた盆には当然、あと一人分が載っている。

はいつも通り、部屋にいると思うわよ」

フロマージュを頬張りつつ、ナミが言った。

は記録係を務めており、この時間に航海日誌を書くのが日課である。

だからおやつはいつも部屋に持っていくのがサンジの仕事なのだが。

ドキ…

サンジは高鳴る鼓動を抑えつつ、女部屋へ向かった。


「…ちゃん、居るかい?」

「あ、もうそんな時間?ありがとう、サンジ」

昼とはいえ、部屋の中は窓も碌に無いので、が向かう机の上のランプはついた状態だ。

オレンジの光に仄かに照らされるの瞳は、見ているだけで吸い込まれそうだ。

「…サンジ?」

「あ、ゴメン、何だっけ」

「いや、今日のおやつは何かな、と思って」

「ああ、フロマージュだよ。ナミさんのミカンを使って」

「そっか、だからこんなに良いミカンの香がするんだね」

出されたフロマージュを見て、思わず笑みを零す

いただきます、と言ってフォークで切り分けて口に運ぶ。

「…うん!美味しいv」

一拍おいてから、その言葉と共にまた笑みが零れる。

「じゃあ、食べ終わったらお皿返しに行くね」

「いや、少ししたら取りに来るよ」

それじゃあ、と言って部屋を出ると、ほうっと溜息をついた。

甲板から男共の催促の声が聞こえる。

「サンジー!おやつまだかー!」

「うるせェな!一息くらいつかせろクソゴム!!」




…もどかしい。

いつものレディとの対応がに対して出来ない自分が。

苛立ちを少しずつ吐き出すように、サンジは皿を乱暴な音を立てながら洗った。

その時、キィ、と控えめな音がして、が入って来た。

「忙しいところゴメンね、紅茶煎れてもいい?」

わざわざそう断りを入れて、は自分のカップを出し、気に入りの茶葉を棚から取り出した。

直後にサンジが皿を洗い終えるのを見計らって、薬缶に水を入れ、沸かし始めた。

そこまでやってから、はテーブルで一息ついた。

ふぅ、とついた溜息は、どこか重い。

「…ねえ、サンジだったらやっぱり、好きな人の前でも平素のままでいられるよね?」

サンジは、いきなりな質問に話の流れがつかめず、少し戸惑った。

「…ちゃんは、そう思うのかい?」

「うん…想像できないもん。
 その点私はね…毎日戸惑ってばっかで…」

話の筋を読むと、船内に好意を持つ相手がいるようだ。

そう推測した後で、サンジは足元が何も無くなったみたいな嫌な浮遊感に襲われた。

「やっぱり、サンジなら好きな人の前でも調子乱すなんて事ないよね…」

「…あるよ」

「…え?」

サンジは向きを変え、いきなりの動きに少し後ずさったをそのまま壁に押し付けた。

両手をの顔の横に伸ばし、わけが解らないといった顔のをじっと見詰めた。

「俺だっていつも…いつも調子狂いっぱなしで、ぼーっとしたり、落ち着かなかったりしてばっかだよ。
 いつも情けなくてガキみてェだと思ってる」

「…サンジ?」

「おやつを持ってく時には、部屋に向かうたびに心臓を必死に落ち着かせなきゃならないし、飯の時だって顔に血が集まらないようにって事ばっか考えてる。
 日頃何をしてても手につかなくて…」

一旦そこで言葉を切ると、その勢いで顔を近づけた。

互いの唇が、軽く触れ合う。

「…のことしか、考えられなくなる」

驚きが隠し切れないでいるを見て、サンジはこの片思いを断ち切る決意を固めた。

この先は、ナミやロビンと同じように笑いかけようと。

しかし、失恋の苦味を一人味わっていたサンジにとって、信じられない言葉がから伝えられた。

「…私、だって、最近の航海日誌はずっと真っ白で、書く時はサンジのことしか思い浮かばなくて…」

「…え?」

驚いて目を見開くと、が背伸びをして、サンジに軽く口付けた。

「私も、好きなの…サンジ」

言うと、はすぐに俯いてしまった。

長い髪の間から覗く首筋がほんのりと紅く染まっていた。


すっかり忘れられていた薬缶が、存在を主張するように大きく音をたてて噴きこぼれていた。





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ONE PIECE初夢です。
水乃からしてみると甘すぎて気持ち悪いので、オフ友に見せる顔がないことに…(あああ、そんなこと言ったらまた墓穴が…)
読む分には好きなんだけどねぇ…書くのはねぇ…(なら書くなよ)
ここまで甘くしたのは初めてです;;
あれだよ…ちょっと壁に押し付けてもらうの憧れだったんだよ…(変態め。)
初々しいサンジが、他のサイトでは可愛いはずなのに、自分で書くと気持ち悪くて仕方が無い!!(汗)
ところで、恋に落ちると相手の気持ちに疑り深くなる人と、とことん自信を持つ人といますよね。
私は何故か典型的後者ですが(そのくせ全部ハズレ)、このサンジは明らか前者ですな。
まあ、どちらにも言える事は、良い方向にしろ悪い方向にしろ、恋には早とちりがつきものですよね、ということではなかろうか、と…