XXX
授業と授業の合間の休み時間。
いつものように新聞紙を広げて椅子に凭れている快斗に、青子が話しかけてきた。
「ねー、快斗」
「何だよ?」
「Xって、なんだか分かる??」
「はぁ??」
いきなり何を言うのかと、変な顔で見られて青子は不満気に言う。
「だって、蘭ちゃんが前に聞いてきたんだもん。『Xって知ってる?』って。
蘭ちゃんはその言葉を聞いたその日のうちに意味教えてもらったらしいんだけど…」
「んじゃー本人に聞けばいいじゃねぇか」
「青子もそう思ったんだけど、どうしても教えてくれなくて…
そしたら蘭ちゃんがわかんないとき、友達に『新一君に『分かったら、私の大切なXをあげる』って聞いてみたら』って言われたんだって言ってたの」
「あいつに大切なXをあげるゥ???」
それを聞いたとき、きっとコナンも傍にいたんだろう。
そう思うとその時あいつはどう思ったんだろうな、と考えるとなかなか面白い。
いやまず、コナン(新一)はXの意味を知ってるんだろうか。
因みに快斗は知らない。
大切なもの…?
それが何だか分からないが、好きな人の何か大切なものをもらえるのだとしたら、嬉しくないわけがないだろう。
ちょっと羨ましい。
まあ、結局もらえなかったんだろうけど。
「…なぁ、青子」
「何?分かる??」
「いや、まだわかんねーけどよ、もし…もし俺が意味分かったら、お前もそのXくれる??」
「え?…う〜ん、まあ、青子があげられる物なら、物にもよるけど…」
「くれんだな?」
「…じゃー、いい…よ?」
「言ったな?よし」
そういうと、快斗はうきうきして新聞紙に顔を戻した。
「…で?」
「で、って言うなよ、つめてーな」
「そうじゃなくて…なんでおめーがここにいんだよ?」
「だから、その話結局どうなったのかな、と思って」
そういうと、快斗はそれまで腰掛けていた窓枠から飛び降りた。
呆れたようにテーブルに頬杖をついてそれを眺めるのは新一。
放課後になるとその足で快斗は工藤家に来ていた。
「Xの意味、結局わかんなかったのかよ?」
「まぁ、な。分かっててもそん時は姿戻ってねぇから貰いようも無かったんだろーけど」
「…今は?」
「は?」
「今は、意味知ってんのかよ?」
「いや…結局、蘭に聞いても教えてくんねーし。
そっからたまにそのマークつけてメール送ってくるようになったんだけど、今でもさっぱり…」
「そのメール、今でも残ってるか?」
「ん?ああ…」
ホラ、と見せられるが、最後にXXXと付いてるだけで、他には何もかかれていない。
「…謎だ…」
「だろ?」
快斗は頭を抱えだす。
その快斗の真剣に悩む姿に、新一は疑問を投げかけた。
「つーか、なんで今更そんな事知りたがるんだよ?」
「いや、まあ、それは…」
すこし照れるように言う快斗に、新一は事情の一端を察して目を細めて笑う。
「なるほどね。…カノジョ絡み、だな?」
「や、別にー…」
快斗は上の方へ目を泳がせる。
表情だけで、もはや認めたも同然だ。
いつまでも白を切ろうとする快斗に、新一は目を半目にして追究する。
「いーから、説明しろよ。俺も一緒に調べてやっからよ」
「…マジ?」
快斗は表情を明るくして、照れつつも漸く事情を話した。
「…へぇ。よくやるねぇ、お前も」
「う、うるせーよっ」
快斗は頬を染めてぽりぽり掻いている。
話が終わると、新一は携帯電話を取り出した。
「…んじゃまあ、とりあえず…」
「何処にかけんの?」
快斗が興味深げに携帯の画面を覗き込む。
その画面に映った名前は、
「そりゃ勿論…」
『おう、工藤やないか!』
「よぉ、服部」
『自分が電話してくるんは珍しいやんけ。何や、事件か?』
あまりにうきうきしてそう聞いてくるので、新一は呆れたように「つまんねぇ期待してんじゃねーよ」と返す。
「Xってマークの意味、知ってっか?」
『何や、そないなコトかいな』
「って、知ってんのかよ?」
『まあ、な。
オカンがそないなメールぎょーさん送ってくるんで、自然と覚えてもーたわ』
「で、どんな意味??」
快斗が会話の内容を聞いて身を乗り出してきた。
『快斗もおるんか?ええなァ、東京は賑やかで』
「それはいいから。で?」
『ま、辞書でも調べてみぃや。
快斗はともかく、工藤新一ともあろう人間が分からん単語を辞書で調べもせんとはなァ?
自分の脳内辞書の過信のしすぎなんとちゃうか?』
「だってアレって、マークか造語だろ??あんのかよ?」
『ま、調べてみてそれでも分からんかったらまたかけてきぃや。
辞書ゆうんはスゴイでェ?…ほな』
「あっ、オイちょっと……切れた」
ツー、ツー、と虚しい電子音が残る携帯電話を恨めしく睨みながら、新一は英和辞書を取り出してきた。
「とりあえず、X(で調べてみっか…」
手馴れた手つきでXの欄を探すと、Xのつく単語はいくらもなく、すぐに特定できた。
「18歳未満禁止…不特定…」
「あ、『手紙の文末に付くと』って特定の場合であるんだ」
「なになに、…き…す……の…し、るし…?」
読み上げて、二人は一気に耳まで赤くなった。
「あっ、だから園子のヤツ…!!」
当時の園子のにやけ顔が脳裏に浮かぶ。
快斗は快斗で、今日自分で取り付けた約束を思い出していた。
二人とも狼狽しすぎて、ギクシャクしている。
「そ、そんじゃ俺、帰るわ」
「お、おう、気をつけてな」
快斗は右手と右足が一緒に出ている状態で、顔の熱も覚めやらぬまま帰途についた。
翌日。
「あ、快斗!意味分かった??」
「あ、あー、う〜ん…微妙に…」
自分の机に飛びついてきた青子を見て昨日知ったことを思い出し、目を泳がせる。
「ま、まあ青子には知る必要のねー意味だったよ」
「何よお、青子にも教えなさいよ!!勝手にあんな約束取り付けといて!」
ずい、と青子が顔を寄せてくると、快斗の心拍数が上がってくる。
このままというのも辛く、とうとう快斗は音を上げた。
「…ったく、聞いて後悔すんじゃねーぞ!」
あまり大きな声で言うのも恥ずかしかったので、青子にごにょごにょ、と耳打ちした。
「へ…」
意味を聞くと、青子は途端に顔を赤くする。
その反応に、やはり快斗も顔を赤くしてそっぽを向く。
「あ、青子、あげられるものならって言ったよね…?」
どもりながら言う声を片耳にうけながら、顔はそっぽを向けたままで言う。
「ああ、だから別に……って…」
ちゅっ。
不意に頬に感じた慣れない感覚に、快斗は思いっきり顔を青子の方に向けた。
青子はこれ以上ないくらいに顔を赤くして、少し涙目にすらなっている。
「あっ、あげたからねっっ!」
今度は青子がそっぽを向いた。
幸い、これを見ていた人物はいなかったようで。
快斗は拍子抜けして、「お、おう…」と返事をして青子を見上げた。
その後の二人は、授業の内容が全く頭に入らず、うわのそらだったとか。
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久々にコナンのかなり前の方を読んでて、この話の新一が可愛いvvと悶えた水乃です。
辞書で調べると、本当に載ってるし。
侮りがたし、辞書。
実際快斗がここまで積極的に約束取り付けるコトってないだろーなぁ、とか、書きながら自分で思ってます(笑)
電話越しで二人の声を聞き分けられる平次はすごいと思う。(この小説の中で)
でも快斗の方が若干高そうだなぁ。
平次相手だと、新一テンション低めだし。
でも新一って、忘れがちだけど実は快斗なみにイタズラ坊主なとこありますよね。
最近水乃は、快斗に見慣れてきたら新一とどこが似てるんだろう??って思うようになってきました。
いや、顔のパーツは同じだけど。でも見間違うほど似てないよな?って思うようになりました。
見すぎて感覚がおかしくなったのかしら??(オイ。)
まじ快の三巻の最後と四巻の最初の話が一番快斗と青子が新一と蘭に似てた時期だと思います。あれは確かに同じ顔。
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