以前と変わらない笑顔を見せてくれるけど、ふとしたときに寂しさが垣間見える。
『大丈夫ですか?』と訊くと必ず、笑顔に戻して『大丈夫』と答えてしまうから、
差し伸べようとした手が宙ぶらりんのまま、僕はその笑顔に、ただ騙された振りをすることしか出来ない。
宙ぶらりん・3
「どーおもう?石川くん」
テーブルに体重を掛けて訊くと、石川くんはずずっとジュースを啜った。
「なんで二人して俺んとこ来るんだよ!!」
「二人って、誰よ〜?」
「別にー」
あーもう、どいつもこいつも!!といきなり頭を抱えて叫ぶ。
ジュースを奢ってあげたのに、なんという言い草だ。
「なー。俺じゃなくてもさ、宮村とかどうなのよ」
「駄目。なんか奢るって言ったらスタバとか言うから」
最近行ってないんだ〜とぼやいた宮村の顔を思い出す。
別にスタバじゃなくてもいいけどね、とは言われたけど。
それ以前にあの天然無神経に相談事など頼めようか。
「いーじゃん石川くん、百戦錬磨なんだから」
「オイ。人を女好きみたいに言うな」
そうは言わないけど、振られたこともあり、告られたこともあり、付き合っているのかいないのかという、微妙な関係も経験中だ。
あのメンバーの中では一番経験豊富な方だと思う。
「だからさぁ、期待っていうのはやっぱ重すぎるんかな〜って思うんだけど」
「あー、そうだなぁ…」
石川は以前柳に相談されたときの言葉を思い出したが、やっぱりここで柳の考えを教えてやるわけにもいかんだろうなぁ、と悶々していた。
先はありそう、な事は言っていた。
でもその先を期待させるのは、にも柳にも辛い思いをさせるだろう。
(どうすりゃいいんだよ!!?)
心の中の叫び。良い人故の葛藤である。
「あー、あのさ;;女子はどういう意見なの?」
「え〜、何か、ユキちゃんにはなんだか相談し辛いし、レミちゃんは真っ向アタック派で、堀さんはちょっと重いかも派で、河野さんはやっぱり男子に意見を仰いだほうがいいんじゃない?派」
(河野さーん!!!)
つまり賛成1反対1中立1、みたいな。
石川はしばらく意見を整理して、一つ息をついてから口を開いた。
「…でもさ、はどう思うわけ?たとえ人に重いから期待しない方がいいんじゃない、って言われても、やっぱ自分で納得しないとそう簡単に諦められるもんじゃないだろ」
「…うん、そうだね」
「柳は別にがどういう気持ちでいてもそれを責めることはないし、も辛くなるだろうけど、自分がそれでいいんなら、期待したまま待ってみてもいいんじゃないか?」
そう言うと、はストローで氷をつっついたまますこし黙り込んで、こくりと頷いた。
「そうだよね。人がどう言ったところで変えられるモンじゃないもんね。
うん。なんかすっきりした気がする。ありがと、石川くん」
「おう」
「さすが百戦錬磨!」
「次言ったらもう相談乗ってやんねーぞ」
…うん、自分の中で思うだけなら自由だもんね。
もしかしたらずっと待ちぼうけかもしれないけど、
すこしだけ期待して待ってみようと思う。
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